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『スローカーブを、もう一球』 山際淳司著

無名選手の孤独な心理戦

 群馬県の高崎高校が甲子園出場を決めた。

 吉報を聞き、スポーツノンフィクションの古典と言える山際淳司(1948〜95年)の同校の快進撃を描いた名作を思い出す人はいるだろう。

 胸を甘くくすぐるものが、この一編にはすべてそろっている。猛練習とは無縁の野球部が、次々と強豪校を破ってゆく。エースの得意球は、スローカーブだ。風と土のにおいがするグラウンドで、山なりの一球が強打者たちを戸惑わせる。

 文庫本には、本作を含め8編を収録する。1979年の日本シリーズ、広島―近鉄の有名な9回裏の攻防を切り取った「江夏の21球」もある。だが、同高をはじめあまり著名ではない選手に寄り添う作品が多い。

 「たった一人のオリンピック」は、さえない大学生が突然、五輪出場を目指す。マイナー競技の一人乗りボートなら出場できそうだと考え、「今日、Good ideaが浮かんだ!!」と日記に書く。1年半での目標達成を目指したが……。

 夢が(かな)わなかった者のドラマは普段、顧みられないだけに純粋さを保っている。故人もきっと、真っすぐな人間だったのだ。(待)

 角川文庫版は1985年刊。63刷75万2000部。476円。

2012年2月15日  読売新聞)

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