|
栗本薫さんの大長編ファンタジー「グイン・サーガ」の第1巻が発売された1979年、私は読書の面白さに目覚めたばかりの中学生だった。100巻を目指す壮大な構想に感銘を受け、剣と魔法の支配するミステリアスな異世界にどっぷりと浸ったことを覚えている。
豹頭(ひょうとう)の戦士グインの獅子奮迅の活躍に胸躍らせてからはや四半世紀。少年は不惑間近の年となり、全巻読破の目標も中座したまま。だが、グインの刊行は息切れせず続き、一続きの物語である本編(正伝)だけで97巻、逸話が語られる外伝も19巻に達した。
正伝は、大長編の代名詞、中里介山の「大菩薩峠」(ちくま文庫版全20巻)も、山岡荘八の「徳川家康」(全26巻)も超えた。2000話以上あるドイツの「宇宙英雄ペリー・ローダン」は複数作者の執筆だ。
1人の作家による世界最長の小説の栄誉は揺るぎないと思いこんでいたら、いまだに「ギネス世界記録」に認められていないと聞き、驚いてしまった。
同記録の「最も長い小説(ノベル)」の座は、2004年版まで960万9000文字のM・プルースト『失われた時を求めて』(フランス)が、2005年版からは1415万6074文字のS・ロバーツ『ニカーズ』(イギリス)が占めている。
グインの出版元、早川書房が5年ほど前、申請した際には、1冊完結のシリーズものと誤解されたらしく却下。正伝が93巻に達した今年4月、米国の英語版を元に算出した3022万5000文字のグインが最長と主張したが、「この記録は1冊の本でなければ認められない」との返事が来た。さらに同社では、「3000万文字を1冊の本で刊行するのは不可能で『最長のフィクション』の新設を」と要望、これも拒否されたという。
英国のビール会社の関連会社が認定する「ギネス世界記録」は約4万5000件の世界一が登録されている。書籍・雑誌の項目でも、「発売前の予約最多の本」や「『タイム』誌のカバーに登場回数最多」など細かな枠組みがあるのに、なぜ、「最長のフィクション」はダメなのか。米国版も好調で日本の大衆小説の海外進出を牽引(けんいん)する作品だけに悔しさはひとしおだ。
来年4月にはついに正伝100巻に到達する。この金字塔を機に、ファンや小説界全体で記録獲得の運動を起こすのも一案ではないか。
世界最長のフィクションに認定されたら100巻までの読破に挑戦し、少年の日の胸のときめきを取り戻してみようか。最近お気に入りのギネスビールでも傾けながら。(佐藤 憲一記者)
(2004年11月5日 読売新聞 無断転載禁止)
|