沼田まほかる「九月が永遠に続けば」 息子を捜す母―新人離れの筆力
深町秋生「果てしなき渇き」 娘を追う父―終盤、強い既視感
今年第5回を迎えた「ホラーサスペンス大賞」は、共同主催の新潮社と幻冬舎が毎年交互に「大賞」と「特別賞」を分けあうユニークな新人賞だ。その一方、決定的な「これ一作」が出ないもどかしさもあったが、今回は違う。大賞受賞作、沼田まほかる『九月が永遠に続けば』(新潮社)は、同賞の中で抜きんでた傑作と言える。
佐知子は離婚歴のある41歳の主婦。ある夜、高校3年生の息子がゴミ出しに外へ出たまま行方不明になる。翌朝、佐知子が通う自動車教習所の教官が駅のホームから転落死するが、佐知子は16歳年下の教官と深い関係だった。さらに彼は、元夫の現在の妻の娘とも交際していたという。息子は何をしたのか? 佐知子の中で、焦燥と疑惑が日々膨らんでいく。
神隠しのように消えた子供、その行方を追う母親という構造は桐野夏生『柔らかな頬』を連想させるが、手触りはまったく異なる。とにかく、これだけ錯綜(さくそう)した人間関係を詰めこみ、破綻(はたん)しない筆力にはうなるほかない。ある女性の悲運を強調するあまり、生理的に「ここまで書くか」という部分もあるが、ホラーにありがちな超自然的なこけおどしがないのもいい。
さらに特筆すべきは、佐知子の隣人で、うっとうしいまでに世話好きな「服部」という男の存在感。作者は57歳、新人としてはトウが立っているが、「新人の商品価値は、まず若さ」という最近の出版界の風潮への一矢にもなるだろう。
◎
深町秋生(あきお)『果てしなき渇き』(宝島社)は、第3回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。この賞もネットで選考経過を公開したり、評論家や書評家が選考委員を務めるユニークさが売り。本書に引かれたのは、元刑事の父親が別れた妻の元から失踪(しっそう)した高校生の娘を捜すという、『九月――』を鏡に映したような出だしだったからだ。
元刑事は精神に不安定なところがあり、一度怒ると暴力の虜(とりこ)になってしまう。それでも娘を愛する心に偽りはなく、覚せい剤がらみの事件に巻き込まれたらしい娘の足跡を追い、底知れぬ闇の世界に迷い込んでいく。
「母性」とはまた違う「父性」の側から突き詰めた物語を期待したのだが、結論から言えば大いに不満だ。中盤まではハードなサスペンスとして読ませる。が、終盤の乱れ方と既視感の強さには「これはないだろう」という感じだ。同賞は今回2作の大賞を出しているが、受賞作の多さはかえって賞の寿命を縮めはしないか。必ずしもこの賞だけの問題ではないが。
◎
恩田陸『ユージニア』(角川書店)は、書店で手に取った瞬間から物語に入り込んでしまうような装丁、造本による演出が目をひく。またこれが、虚実の間を往還する語り口によく合っている。北陸の古都、K市の名家で25年前に起きた大量毒殺事件。容疑者はすでに自殺し、動機不明のまま終結したはずの悲劇が、生きのびた関係者の証言により、パズルのようにまったく異なる「絵」を描き出す。近年、著者が追求している、多面的な解釈が可能な「外に開いた本格ミステリー」としては、一つの到達点と言えよう。
井上荒野『しかたのない水』(新潮社)は、同じフィットネスクラブに通う6人の男女の恋模様を追う連作集。出口のない背徳関係をねっとり描いた前作『だりや荘』に続き、またしても嫌らしいほどに恋愛の持つ「障気」を行間から立ちのぼらせる。全然癒やされないが、なぜかクセになる味。「クラプトンと骨壺」が、特に皮肉でいい。(石田 汗太記者)
(2005年2月28日 読売新聞)
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