批評的うんちく語る かわいいキャラたち
オタク文化の浸透に伴ってコミックと文学の世界の垣根が低くなってきた。若者向けの文芸誌や批評誌で活躍する西島大介さん(30)は、そのボーダーレス時代を象徴する新鋭だ。丸顔のかわいい絵柄とシュールな世界観の同居する“不思議マンガ”を生み出したものとは?(佐藤 憲一記者)
単行本デビュー作となったのは、昨年刊行の『凹村(おうそん)戦争』。「今思うとむちゃで異例な試みだった」と振り返るのは、マンガ雑誌の連載を経ないとデビューが難しい出版界の常識を覆し、文芸出版社、早川書房のSF小説の叢書(そうしょ)の一冊、しかも書き下ろしで刊行したからだ。
CG映像作家として創作をスタートし、音楽、映画評のライター、イラストを手がける多彩な才能の持ち主。「SFマガジン」「ファウスト」などサブカルチャーの文芸誌などを仕事の舞台としてきた結果、文芸畑でデビューした。
「マンガは以前から描きたかった。短編などで試行錯誤を繰り返すうち、宮崎アニメ的なコマ割りの中で、主人公に批評的なうんちくを語らせる自分の方法を見つけ出した」という。
SFのモチーフをちりばめた『凹村戦争』では、山に囲まれ隔離された村に暮らす中学生の間に、宇宙から飛来した物体が波紋を巻き起こす。今年出た『世界の終わりの魔法使い』(河出書房新社)は、魔法使いの住民が住む宇宙のはずれで、一人科学を信奉する少年が謎の魔女と出会うファンタジー。
広がりを感じさせる空間に、アニメやSF、9・11などのメタファー(隠喩(いんゆ))をちりばめ、愛や希望が思索的に語られる。「話は作り込んでいても、かわいいキャラクターは自然と出てきたもの」。虚無的な終末感の中に漂う優しさは、90年代の黙示録的アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の影響を受けた世代の感性なのだろう。
「僕はエヴァを最後にオタク文化は終わったと思っていた。でも10代、20代がその模倣を続けているのをみて、そこにまだ何か真実があると思い直した」
今年夏にはベトナム戦争を題材にした新作を発表する。「マンガは、映像作家やライターとして培ったことを総合的にできる魅力的なジャンル。一生の仕事としたいと思っています」
マンガと文芸雑誌で“融合”
マンガと文芸のボーダーレス現象は、雑誌の分野で顕著だ。5月5日創刊の「少年文芸」(新風舎、年2回刊)は、「詩とマンガと小説の総合文芸誌」をうたい、マンガ誌が専門化する以前の昭和20年代、少年少女を熱狂させた「少年クラブ」「冒険少年」のような読み物雑誌の原点に立ち返る狙いがある。詩人の谷川俊太郎から、さそうあきらのマンガ、戸梶圭太の小説など、執筆陣も豪華だ。
オタク世代の文芸をけん引する「ファウスト」(講談社)も、アニメやゲーム的なイラストを数多く採用、舞城王太郎、西尾維新らライトノベル出身作家の小説との融合を図る。サブカルチャー批評誌的な性格も兼ね備えており、不定期刊ながら古参の文芸、小説誌を差し置き、実売約5万部とトップを走るという。
「メフィスト」(講談社)、「ミステリマガジン」(早川書房)、「ミステリーズ!」(東京創元社)など、ミステリー専門誌でも、ストーリーマンガの連載が定着している。諸星大二郎、高橋葉介ら幻想的作風のベテランが常連だ。
(2005年4月27日 読売新聞)
|