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終身雇用の崩壊、フリーターの増加など労働環境が大きく変わる中、働く意味を問い直す小説が目立っている。山本周五郎賞に決まった『君たちに明日はない』(新潮社)の著者、垣根涼介さんのインタビューを軸に、バブル後の世相を映し出す「仕事小説」を探ってみた。(佐藤憲一記者)
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「この作品で自分にとっての仕事の意味も考えた」と語る垣根涼介さん(第18回山本周五郎賞発表の記者会見で)
『君たち――』の主人公、真介はリストラ請負会社の首切り面接官。犯罪小説を手がけてきた作者だが、サラリーマンの世界に挑戦したのは、「普通の生活の中にも、自分がテーマとする人間の極限状態がリストラという形であると気づいた」ことがきっかけという。
情熱や才能を持ちながら、非情な合理化でリストラ候補に挙げられ動揺する男や女。ときに殴られながら、シビアな仕事にやりがいを見いだす真介。首を切る側、切られる側双方の視点で、悲喜こもごものリストラを浮き彫りにしていく。
建材会社や銀行、おもちゃメーカーなど様々な会社が舞台となるが、リアルな描写には「旅行会社の営業職など10年近いサラリーマン生活で、さまざまな職場を見聞きした」経験が役立っている。
登場人物の大半は、不況の時代を生き抜いてきた30〜40代。現在39歳の作者も、就職からほどなくバブルが崩壊し厳しさを身にしみて感じてきた。年功序列の昇給をあてに組んだマンションローンの支払いが給料低下で厳しくなり、「数年後に自己破産しかねない」状況に追いこまれたことも。
「まじめに仕事してるおれがなぜって頭にきましたね」。作家を目指した最初の動機も高額賞金の新人賞を取り、生活を安定させるためだった。
小説の中の会社員たちも八方ふさがりの状況下で、能力を生かすベンチャー企業への転職など、活路を見いだそうとする。
「会社は結局、利潤追求の組織で、出世競争などの戦いは常に付きまとう。でも、好きな仕事ならば厳しくても耐えられる。この本で一番言いたかったのは、やりがいのある仕事を選ぶべきだということです」
働く意味を問い直す小説
90年代初めのバブル崩壊で最も痛手を受けたのが金融業界。元銀行員の池井戸潤が描く『オレたちバブル入行組』(文芸春秋)は、入行時の夢が破れさった中堅銀行員の厳しい現実を浮き彫りにしている。
絶対安泰のエリート職だった銀行が凋落(ちょうらく)の一途をたどり、ポストの減少やリストラの嵐に悲痛な思いを抱くバブル入行世代。苦境の中、上司のいじめをはね返し、債権の回収に奮闘する支店融資課長の活躍に胸のすく思いがする。
女性の多様な社会進出を反映するのが平安寿子(あすこ)『くうねるところ すむところ』(同)。情報誌編集者の30歳女性が、一目ぼれしたとび職の男性を追って、傾きかけた工務店に転職、現場監督に抜擢(ばってき)される。土建業界という肉体派の職場で、一生ものの家を作り上げていく仕事に充実感を覚える主人公がさわやかだ。
十貴川洋子『バンク・ホリデイ』(集英社インターナショナル)は、ロンドン金融街で働く30代女性のラブ・コメディー。「恋も仕事も頑張りたい」のは女性の共通の思いなのだろう。
松岡圭祐『ミッキーマウスの憂鬱』(新潮社)は巨大テーマパークが舞台。21歳のフリーター青年が、正社員とアルバイトの階級の壁を越え、「夢と魔法の王国」の危機を救う。フリーターの働く意味も今後重要なテーマとなるはずだ。
(2005年6月1日 読売新聞)
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