先駆的、幅広いトリック
ルパン生誕100年――こんな帯を付けた本が、書店で目立っている。怪盗紳士アルセーヌ・ルパンがフランスの雑誌に初登場して、今年で100年になるという。探偵小説研究家・戸川安宣さんの話を交えて、今なお愛され続けるシリーズの魅力を探った。(西田朋子記者)
最初の短編『アルセーヌ・ルパンの逮捕』は1905年、月刊誌「ジュ・セ・トゥ」に掲載され、爆発的人気を呼んだ。作者モーリス・ルブランは当時41歳。本来は心理小説志向で、ルパン人気は不本意だったというのだが、76歳で亡くなるまでに計56編の“ルパンもの”を発表した。
それらは世界22か国で翻訳され、“生誕100年”の今年は仏英などの合作映画(実写版)が来月、公開される。邦訳版を手がける出版各社も連動し、今月下旬から全国でブックフェアを展開する。
知力だけでなく変装や武術にたけた痛快無比の大怪盗。熱烈な愛国者で、女性を深く愛する。情にほだされ大失敗することも――。天才少年とルパンが伝説の財宝を巡って暗号解読にしのぎを削る『奇岩城』、希代の殺人鬼との対決『813』、美少女オルタンスを助手に難題に挑む『八つの犯罪』など、懐かしくも胸躍る傑作は数知れない。
ルブランは、長編では手に汗にぎる冒険を、短編では謎解きの面白さを重視したとされる。魅力的なキャラクターゆえに「さほど言及されないが、実はルパンもので描かれるトリックは非常に先駆的で幅広い。密室もの、雪の山荘もの、レンズの原理、足跡トリック、叙述トリック、意外な犯人といった主要パターンを網羅し、その後のミステリー界に与えた影響は計り知れない」と戸川さんは語る。
本国では大人向けの娯楽小説として読まれたが、日本では早くから年少の読者向けに翻案がなされた。軽妙洒脱(しゃだつ)な名調子でオールド・ファン一押しの保篠龍緒(ほしのたつお)訳(講談社・青い鳥文庫『ルパン対ホームズ』など)。南洋一郎によるポプラ社版は、訳者によるパスティーシュ(偽作=『ピラミッドの秘密』)も含め、のべ880万部が読まれている。戦後は詩人の堀口大学(新潮文庫版)も手がけており、読み比べてみるのも面白い。
江戸川乱歩が変幻自在の怪盗ルパンを愛し、「怪人二十面相」(「少年探偵団」シリーズ)のモデルにしたのは有名だろう。ルパンの孫がガンマン・次元大介や剣士・石川五右ェ門らと活劇を繰り広げるのは「ルパン三世」。そのテレビアニメ、宮崎駿監督らによるアニメ映画は、海外でも大人気を博している。
原作にオマージュ(敬意)をささげつつ新たな輝きを放つ多様な作品の土壌となった点でも「ルパンの功績はあまりに大きい」と戸川さん。
(2005年8月24日 読売新聞)
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