意表つく「タイトル」知恵比べ
教養新書の元気がいい。ミリオンセラー続出の中で目立つのが、山田真哉『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』といった意表をつくタイトルの本。毎月70、80点の新刊が競う新書戦争を勝ち抜こうと、編集の現場はどんな知恵比べをしているのか。(佐藤憲一)
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装丁は地味でも、タイトルは目立つ言葉が並ぶベストセラー新書
『さおだけ屋――』が7か月で100万部を突破した光文社新書は、命名が絶妙と評判だ。「超初歩の会計学入門」的な本だが、さおだけ屋という商売が成り立つ“からくり”から会計学の基本を解説する内容の一部をあえて書名にした。「著者と担当編集者の間のキーワードをそのまま用いたことが良かった」と語る古谷俊勝編集長も、最初書名を聞いたときは「まさか」と驚いたという。
現代女性の性や生殖への軽視に警鐘を鳴らす、三砂ちづる『オニババ化する女たち』も22万部のヒット。読者に怒られることを覚悟で、身体性を忘れた女性の行く末を意味する「オニババ」という強烈な言葉をタイトルに使った。
PHP新書の樋口裕一『頭がいい人、悪い人の話し方』は210万部のメガヒット。しかし読んでみると、頭が悪く見える実例と対策ばかり。実は当初、「バカに見える話し方」という企画だった。
担当編集者の阿達真寿さんは「多少の無理は承知で、悪い例も知ることでいい話し方も身につくと、タイトルに広がりをもたせた。成果主義に追われるなど他人の視線が気になる現代人の自意識をくすぐった」と成功の理由を分析する。
最近の新書ブームの火付け役は、2年前の新潮新書創刊ラインアップの一冊で、400万部を突破した養老孟司『バカの壁』。「内容を決める前から、養老さんが以前から使っていたこの言葉を書名にと考えていた」という新潮社の石井昂常務は、徹底したタイトル重視派。発想は目を引く見出しから記事の企画を考える週刊新潮などの感覚に近い。最近の保阪正康『あの戦争は何だったのか』(14万部)も当初案の「太平洋戦争とは何だったのか」から変えた。
教養新書は、岩波新書、中公新書、講談社現代新書の“御三家”の天下が長く続いたが、この10年間、新規参入組や、ハウツー系の実用新書からの転身組が相次ぎ参入、今や20以上のブランドが乱立する戦国時代だ。装丁やサイズも同じで差別化が難しい中、後発組が従来の常識にとらわれない奇抜なタイトルで、主要読者の中高年男性以外に女性や若い層を取り込み、ベストセラーを生み出している。
一方、創刊67年の老舗、岩波新書の小野田耕明編集長は「あるテーマを知りたい読者が新書の棚に行ってすぐ分かるような百科事典の項目的な書名が基本」と話す。固定ファンには、28万部の高橋哲哉『靖国問題』(ちくま新書)のように、ずばり内容を表す正攻法が、好まれる。
今年、若者を対象にちくまプリマー新書を創刊した筑摩書房の松田哲夫専務は「教養新書の従来の概念にとらわれず、小説など多様な可能性が模索できるはず」という。藤原正彦、小川洋子『世にも美しい数学入門』も16万部と対談本では異例の売れ行きだ。
「静かに着実に読まれる世界から、にぎやかな時代に」(小野田さん)変貌(へんぼう)を遂げた教養新書。ネーミングの流儀にも各新書ごとの特色が際立ってきている。
(2005年9月14日 読売新聞)
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