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出版トピック

快挙?危機? 新人文学賞 超若年化

13歳や15歳受賞「才能先取り」
話題作りとの批判「門戸広過ぎ」

 「いったい何歳まで下がるのか!」。そんな驚きの声が聞かれるほど、この秋の新人文学賞では、10代半ばの受賞者が続々と誕生している。賞金や書店員の選考を売り物にした賞の新設も相次ぐ。一方で「質の高い作品を選びたい」と、作家の側から現状を憂慮する声も上がり始めた。芸術とビジネスの間で、いま文学賞に何が起きているのか。(文化部 佐藤憲一、山内則史、受賞者は敬称略)

「メール」世代

 先月5日、河出書房新社主催の「第42回文芸賞」で、静岡の中学3年の女子、15歳の受賞者が誕生した。

 「後生畏(おそ)るべし」と受賞者を評した田中康夫選考委員らを輩出した同賞、これまでの最年少は綿矢(わたや)りさら17歳の3人だ。

 続いて20日、「『このミステリーがすごい!』大賞」で特別奨励賞を受賞したのは大阪の中学1年の女子、13歳。1月には青森の15歳の少女が「小学館文庫小説賞」に選ばれている。

 受賞者の低年齢化に拍車がかかったのは、昨年1月の芥川賞で19歳の綿矢、20歳の金原ひとみがダブル受賞し、受賞作がそろって大ベストセラーになったのを契機と見て間違いないだろう。「文芸の長期低落傾向を脱するための、出版社側の話題作り」との見方もあるが、小学館の稲垣伸寿文芸編集長は「活字離れと言われる10代、20代は、実は携帯メールなどで読み書きに熟達した新世代。創作への欲求は強い」と話す。純文学雑誌「群像」「すばる」にも2000編前後の応募作が殺到し、やはり若年化は著しい。

 1990年代に創設された若者向けのエンターテインメント=ライトノベルの賞から登場した新人が活躍する現状も、作家へのあこがれを後押ししている。講談社の若者向け小説誌が主催するメフィスト賞は芥川賞候補になった舞城王太郎(まいじょうおうたろう)ら、また、ジャンプ小説大賞は人気作家の乙一(おついち)らを発掘。いち早く才能を先取りする新興の賞が成果を上げてきた。

 背景には、老舗出版社の新人賞でデビューして直木賞を目指す、いわゆる“文壇の出世コース”が崩れてきた状況もある。「小説新潮」の江木裕計編集長は、「ライトノベルやブログなど、様々な分野から出てくる才能に目配りしなければならない時代」だと話す。

 「江戸川乱歩賞」や小説誌の新人賞のように、ベテラン作家が文学観をぶつけ合って選考する――そうした従来のやり方を覆す選考方式の賞も急増している。

権威より口コミ

 全国の書店員が選考に参加して話題を呼んだ「本屋大賞」も、直木賞の受賞作への不満から2003年に創設された。これに続きインターネットで読者投票を募り、結果に反映させるのが新設の「野性時代青春文学大賞」。2000万円を賞金に掲げて新設された「ポプラ社小説大賞」の場合は、選考するのは同社の編集者のみ。佐久間憲一編集長は「あえて権威ある選考委員に頼る必要はない」。

 320万部を記録した片山恭一「世界の中心で、愛をさけぶ」は書店員の口コミから火がついた。プロ作家のお墨付きより、読者に近い店員の実感を基準にした方が売り上げにつながる時代なのだ。「文芸というよりはコンテンツビジネス」と割り切り、映画やドラマ化向きの作品を求める動きも見逃せない。

 ただ、こうした状況を危惧(きぐ)する声も出始めている。新人賞の選考経験が豊富な作家の北方謙三氏は、「いろんな方法で試行錯誤するのは悪くないが、新人に門戸が開かれ過ぎだ。水準の低い新人賞は淘汰(とうた)され、受賞後も生き残るのは30人に1人」と警告する。

選考委員 交代巡り騒動も

写真の拡大賞の創設を発表する大江健三郎さん(左は講談社の野間省伸副社長)
賞の創設を発表する大江健三郎さん(左は講談社の野間省伸副社長)
賞の創設を発表する大江健三郎さん(左は講談社の野間省伸副社長)

 商業主義と文学性のせめぎあい。今年27回を迎える「野間文芸新人賞」の選考委員交代を巡る騒動は、その象徴だろう。村上春樹氏らを輩出した同賞は、来月初旬の選考に江國香織、川上弘美、角田光代氏ら5人の新選考委員を予定している。奥泉光、佐伯一麦(かずみ)氏ら同賞の受賞者でもある旧選考委員に「全員交代」が通知されたのは8月から9月上旬。一般的には1年前に通告される。

 旧委員の一人、笙野頼子氏は「なぜこれほど急に入れ替えるのか。私たちは公正な選考に努め、新しい文学を発見してきた。拙速な交代は出版社と作家の信頼関係を損ない、文学賞の公共性をないがしろにするもの」だと、7日、講談社の賞の運営に抗議する記者会見を行った。この騒動にも話題作りを優先する出版社側の思惑が見え隠れする。

 一方、同じ講談社で4日に創設が発表された「大江健三郎賞」(講談社主催)は、ノーベル賞作家の大江氏が一人でベテラン、新人を問わず毎年1作を選び、賞金がない代わりに受賞作を英語などに翻訳、出版するという独創的な賞。「僕ほど多くの賞を選考した作家もいないのでは」との自負は、裏返せば、現状の文学賞は本当に良質な作品を取りこぼしているとの不満でもあるだろう。作家の目で、長く残る本物の「純文学」を掘り起こしていかないと文学の衰退を招く――その危機感が大江賞の背後にはある。

発掘したら育てないと

 「最年少受賞」の惹句(じゃっく)にはマスコミも読者も弱い。若者が新しい文学を開いてきたのも事実だ。

 作家の高橋源一郎氏は「読者の視点を選考に取り入れるのは資本主義の必然。小説はサラブレッドでなく雑食的生命体。文学的権威が失われた混沌(こんとん)の中から、かえって面白い作品が生まれている」と見る。ただ、新人を次々と消費し、育てることに熱心でない現状を「文学賞が、新人を燃料にして走る車になっている」と心配する。

 脚光を浴びた新人が一作で消えることも珍しくない世界。才能ある書き手を育てる姿勢も必要ではないか。「文学のカラオケ化」(斎藤美奈子氏)を背景とした若さ偏重、賞バブル的な風潮の中で、出版社の見識が問われている。(山内)

ライトノベル ファンタジー、恋愛、ミステリーなど中高生を主な読者層とする娯楽小説。イラスト入りで新書、文庫判が多い。直木賞作家の村山由佳らを輩出し、2000年ごろから出版社も刊行点数を増やすなど、注目度が高まっている。

(2005年10月11日  読売新聞)