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平安時代の伝説的な陰陽師(おんみょうじ)・安倍晴明(あべのせいめい)(921〜1005)。没後1000年の今年、夢枕獏さんの原作と共に空前のブームを巻き起こした岡野玲子さんの人気漫画『陰陽師』(白泉社、全13巻)が、完結した。3800ページに及ぶ大作を描ききった岡野さんに聞いた。(西田朋子)
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最終巻は、晴明1001回忌(9月26日)の3日後に刊行。「最終巻の執筆に入ったころは『うまくいけば重なる』と意識しましたが……。『一つの作品として完成させたい』という一心でした」と、ホッとした表情を浮かべた。
原作小説に岡野さんがほれ込み、岡野さんのファンタジー作品を高く評価していた夢枕さんも「漫画化するなら岡野さんに」と熱望、1993年に雑誌連載がスタートした。2001年に手塚治虫文化賞マンガ大賞を受け、単行本は累計500万部にのぼる。
晴明らが基本思想とする陰陽道は、古代中国の陰陽五行説(天に一があり一より陰陽の二元が生じ、万物は木火土金水の五つの要素の循環によって成る、という哲理)に基づく。その希有(けう)な才能のためか、実在の晴明については『今昔物語』などに“式神を操り、あらゆる事件を未然に知りえた”などの記述がある。
夢枕版は、雅楽の名手・源博雅とのコンビで京の怪異を解決する美青年として晴明像を一新。岡野版はそのスタイルを踏襲しつつ、巻を追うごとにオリジナル色を強めていった。
クライマックスは村上天皇の御世の960年(天徳4年)前後だろう。内裏歌合(うたあわせ)が華やかに行われる一方、菅原道真の怨霊(おんりょう)が貴族社会を脅かし、日照り、内裏炎上といった変異が相次ぐ。宇宙の摂理に通じ世界に豊穣(ほうじょう)をもたらす、より高次の「魔術師」たらんとする晴明は、孤独な闘いに身を投じていく。
そうした展開となる9巻以降は「プロット(粗筋)を決めずに描き進めました」という。執筆中は玄妙な体験の連続だった。古今の資料をひもとき占術や数理に従って、例えば晴明が行動する日時を算出する。その一瞬が見事に史実の間隙(かんげき)を縫って、矛盾なく収まる……。「偶然や符合や啓示に驚かされてばかり。人知を超えた存在に導かれ、この作品は完成したと思います」
古代エジプト、ローマ、平安京、時空を超えて宇宙まで飛翔(ひしょう)する壮大な世界観を、紙とペンで表現するのは難しい。「ひとつの画面上に違う時間の流れを組み入れ、二重の意味をもたせるなど、あらゆる情報を織り込んで。建物やモノが有機的に感じられるよう、物質を構成する原子の振動を描こうとも試みました」
晴明という名そのものが象徴性を帯びて迫る最終章、まぶしいほどに画面は淡く、軽やかに変化していく。「伝えるべきことは、すべて絵にしました」。漫画という表現手法の可能性を極めた、これは新たなビジュアル言語の出現かもしれない。
宇宙観、生命観 描き切ってもらえた
原作者で、小説シリーズ新刊『陰陽師 瀧夜叉姫』(文芸春秋)を刊行した夢枕獏さんにも感想を聞いた。
「宇宙とは何か、存在とは何かを突き詰め、ここまで徹底的に挑んだ漫画作品は類がない。歴史に残る作品となりました。無理に読み解こうとすると難解なところはありますが、『宇宙とは、人間とは祝福された存在である』ということを、豊かな感性でうたい上げた作品だと思います。岡野さんに安倍晴明の宇宙観、生命観の部分を描き切ってもらえたので、僕の方は安心して本来の小説版『陰陽師』を書き続けていけると思います」
(2005年10月26日 読売新聞)
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