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『まほろ駅前多田便利軒』(文芸春秋)で直木賞に決まった三浦しをんさん=写真=が、受賞会見で「少女漫画とか、ボーイズラブ小説が好き」と発言していた。「ボーイズラブ(BL)」という言葉がてらいなく堂々と出たことにいささか驚いたが、この言葉、実は今回の受賞作を深読みするための裏キーワードかもしれない。
BLとは、要するに「女性のための、男同士の恋愛を描いた小説、漫画」の総称で、源流は1970年代末の同人誌あたりまでさかのぼる。90年代以後、専門誌やレーベルの増加と共に、出版界にひそやかな、だが確固たるジャンル市場を築いている。
BLは少女漫画の発展型と言えるが、ではなぜ「男同士の恋愛」なのかは、あまりきちんと説明されたことがない。当の女性読者たち(よく“腐女子(ふじょし)”と自称する)が、あまり語りたがらないからだ。
三浦さんは“日陰の花”であるBLを、意識して一般小説に昇華しようとしている作家だ。その例の一つが『月魚』(角川文庫)で、『まほろ――』も、その流れの上にあると考えるのは、的はずれではないはずだ。
三浦さんのBL観は、「小説ウィングス」(新書館)2006年冬号での、漫画家・よしながふみさんとの対談でわかる。その中で二人は〈今の男女のあり方について、無意識的に居心地の悪さを感じている人〉が、少女漫画に飽きたらず、BLに向かうと指摘している。男女の恋愛関係には、それ自体に女性を抑圧するものがあり、女性たちは、男同士の恋愛というファンタジーを読むことで、ある種の癒やしを得ているというのだ。
念のため言うが、『まほろ――』の便利屋コンビ、多田と行天(ぎょうてん)の関係は特にBL的ではない。だが、ケンカを繰り返しながら、しだいに疑似家族のようになっていく男二人の間には、非常に繊細かつ優しい感情が流れている。もし行天が女性だったら、こうした微妙さは表現できなかったのではないか。
「制度的家族」に強い違和感を持つ三浦さんは、「そこからこぼれ落ちるような、新しい人間関係」を描きたいと語る。多田と行天のような、純粋に対等な人間としてのつながりが、現実の男女間でなかなか長続きしないのはなぜか。痛快エンターテインメントである『まほろ――』は、深いところでそう問いかけているようにも感じられる。(石田汗太)
(2006年7月31日 読売新聞)
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