大人にも読者層拡大
青空のようにすがすがしく、どこか甘酸っぱい――。中学、高校生らを対象にした「ヤング・アダルト(YA)小説」が脚光を集めている。今年7月に発表された芥川・直木賞は、このジャンルで活躍する伊藤たかみ、森絵都の両氏に決まり、注目度は高まるばかりだ。(待田晋哉)
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中学、高校生にも人気のYA小説。大人の読者も増えている
YA小説の活況を象徴する存在が森さんだ。1991年に講談社児童文学新人賞でデビューし、98年『カラフル』(理論社)を出版。前世で罪を犯した魂が「抽選」に当たり、自殺した中学3年生の体に舞い戻るという、意表を突く展開が支持され、累計20万部のロングセラーになっている。
直木賞の受賞会見では「若い読者を退屈させないようにしてきた経験が生きたかもしれない」と語った。
一方の伊藤さんも、文芸賞でデビュー後、男勝りの女児を描いた『ミカ!』(文春文庫)や坪田譲治文学賞を受けた『ぎぶそん』(ポプラ社)など小、中学生が主人公の作品を刊行する。
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YA小説の読者に別の作品を薦める新潮文庫のチラシ
この分野を切り開いてきた理論社によると、YA小説は元々欧米で盛んに書かれていた。ストーリー展開が明快で、心に響く作品が多いのが特徴だ。一風変わった転校生の出現に男子生徒が翻弄(ほんろう)されるジェリー・スピネッリ『スターガール』や、女子高生4人の一夏を描くアン・ブラッシェアーズ『トラベリング・パンツ』(いずれも同社)など、人気のある翻訳作品は多い。
国内では10年前から、ジャンルとして定着した。最近は、父が娘を「誘拐」する角田光代『キッドナップ・ツアー』や、藤野千夜『ルート225』など、人気作家が挑戦する例も目立つ。同社の小宮山民人編集部長は「大人になる過程で通過する悩みや喜びは、多くの作家が書いてみたいテーマだ。児童向け作品の執筆に、作家が変な垣根を作らなくなった」と語る。
児童書の出版社から出たYA小説は、大手出版社で文庫化されたのをきっかけに大人へ読者層が拡大する。代表例があさのあつこ『バッテリー』で、絵本や児童書の専門出版社での出版後、03年に角川書店が文庫化し、全5巻の累計が250万部にのぼるベストセラーになった。水泳の飛び込み競技を題材にした森絵都『ダイブ!!』も6月に同社で文庫が刊行され、すでに上下巻で22万部に達した。
新潮文庫も、子どもたちが大切な人の死を経験する湯本香樹実『夏の庭』や梨木香歩『西の魔女が死んだ』など、他社から出た作品の文庫化に力を入れる。今夏の「新潮文庫の100冊」フェアでは、YA小説を購入した読者に別の作品をセットで薦めるチラシを本に挟んだ。新潮社は「これらの作品は、文庫の中でもはや定番作品になりつつあります」と話す。
日本で童話・童謡雑誌『赤い鳥』を1918年に創刊した鈴木三重吉は、もともと夏目漱石門下で一般小説を書いていた。芥川竜之介『蜘蛛(くも)の糸』『杜子春』や有島武郎『一房の葡萄(ぶどう)』など、戦前の作家は、児童文学の名作を残している。
子供と大人向けの小説を書く作家や読者の「壁」が薄くなってきた現状は、小説本来の姿に戻りつつあると言えるのかもしれない。
(2006年8月9日 読売新聞)
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