構想 子供時代の団地から
「読者のすべてを敵に回しかねない」(鈴木光司選考委員)ほど危うい熱気をはらむ作品として、第21回日本ファンタジーノベル大賞(読売新聞東京本社・清水建設主催)の選考会を沸かせたのが、小田雅久仁(まさくに)さん(35)の受賞作「増大派(ぞうだいは)に告ぐ」だ。もう一つの大賞受賞作、遠田(とおだ)潤子さんの「月桃夜(げっとうや)」との同時刊行(新潮社)を来月に控え、仕上げに追われている。
巨大な団地に住む少年と団地の公園に住み始めたホームレス男性が、それぞれ抱える家族や社会への鬱屈(うっくつ)を交錯させる物語。「それまでスケールの大きな話に挑んで挫折していたので、子供時代住んでいた団地にホームレスがいた記憶から書き始めてみた」という。
圧巻なのは、社会に増大派と減少派という2大勢力が存在し、水面下で争いを繰り広げているという男性の狂おしい妄想。それが、正体も分からぬまま、彼の生きる日常に食い込んでくる。「彼は優秀と思っている自分を減少派と呼び、大衆である増大派が嫉妬(しっと)して足を引っ張っていると考えている」。そして、格差社会の暗い情念を封じ込めたような妄想は破局へと至り、重い読後感を残す。
挑発的な小説とは違い、本人は謙虚でさわやか。関西大卒業後、保険調査の会社に勤めたが、「サラリーマンは向かない」と28歳で辞め、アルバイト生活の傍ら小説新人賞への応募を続けてきた。
受賞について、「自分の書いたものが広がっていくことへの怖さもある」と打ち明ける。「これから修業を積んで、読者に読んだ後何かが変わったと思わせるような、力強い話を書いていきたい」
(2009年10月20日 読売新聞)
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