迷惑な「異常作家」創造
芥川賞作家の吉村萬壱(まんいち)さん(48)が、新作『独居45』(文芸春秋)を刊行した。強烈過ぎる個性と言動から、周辺住民に迷惑と波紋を広げる作家・坂下宙ぅ吉の異常な生活は、まさに萬壱ワールドだ。
「僕が単なる読者だった時、作家というものにすごい興味があった。この小説は、自分のことを書こうというのが始まりでした」
40歳の時「三つ編み腋毛(わきげ)」で新人賞を受けデビューし、5年で著書は受賞作と「粘着三昧(ざんまい)」の2冊だけ。孤高の純文学作家・宙ぅ吉は一戸建てに独居し、近隣からえたいの知れない人物と見られている。彼にあこがれる作家志望の青年、彼のことが気になる隣の理髪店主、県営住宅の主婦らは、この非日常的な怪物に振り回される。
「困った男がご近所迷惑をかけて、という筋やけれども、最終的にはご近所連中の方が、あこぎで、あくどいやないかという逆転も意識しました」。臭いものにふた、都合が悪いと見て見ぬふりの「良識」に、宙ぅ吉は冷水を浴びせる。講演会では「本物の作家というのは血で書くものです」と、凄惨(せいさん)な上半身をさらす。「僕は皮膚感覚がないとピンとこない。観念的な小説には体のどこも反応しない」
だから吉村作品には粘膜、粘液、分泌物のたぐいがよく出てくる。そして残酷なもの、痛いもの。今春刊行の短編集『ヤイトスエッド』(講談社)にも、そんな作品が並ぶ。「上手な書き手さんは山ほどおるので、自分ができることって考えたら、毒をもること。さらっと流してもしょうがない」
2001年にデビュー、教師をしながら執筆してきた。トイレではニーチェ全集の文庫本を少しずつ読む。「哲学者の言葉は本質を突いているので、一言だけでインスピレーションを得られる時もあります」。次はSF長編を準備中という。
(2009年10月20日 読売新聞)
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