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ユニクロ流「国富論」

「成功は一日で捨て去れ」を出版 柳井正氏

写真の拡大宮坂永史撮影
宮坂永史撮影
宮坂永史撮影

 若い人が現状を変える意欲を持たないと。志が非常に低下している。

 世界的な不況下にもかかわらず、過去最高益を更新するカジュアル衣料「ユニクロ」のファーストリテイリング(FR)。トップデザイナー、ジル・サンダー氏による新コレクション「+J」、パリの旗艦店のスタートに合わせ、自著を刊行した会長兼社長、柳井正氏に話を聞いた。(尾崎真理子)

 「一人勝ちと言われるほど勝ってませんが、不況に負けてはいない。服を変え、常識を変えて、世界を良い方向へ変えていく。この理念の下に我々は働いている」

 こう語る柳井氏は、「今、日本の体たらくの一番の原因は、国民が、特に若い人が、将来に希望を持てないことにある。それを変えるのは国や行政ではなく、個人や私企業」だという。

 同時に「今ほど日本がグローバルに展開できる好機はない」と強調する。

 「中国からインドまでが現在、世界最大の成長センター。そのアジア文化圏の一員で、人、物、金、情報、技術、教育、交通、すべてのインフラがそろう日本は、アジアへ進出するのに断然有利。国内に留(とど)まっている理由はありません」

 安定を求めれば、衰退へ向かう。「国内の限られたパイの奪い合いでなく、めざすは独自に開発する新しい市場」だと語る。

 今月、FRの強さの理由を惜しげもなく開示した新著『成功は一日で捨て去れ』(新潮社)を出版した。

 〈本当に良い服は国境を、民族や文化の違いを超える〉〈われわれは繊維、服、小売の歴史を塗り替える〉。さらに〈2020年には売上高5兆円を達成し、世界で一番革新的で効率の良い企業となる〉と、数々の志が掲げられている。

 柳井氏のこうした高い目標が、フリースブームの後の「最大の危機」を克服し、年間2800万枚売れたヒートテックのように、機能性に富む廉価な服を実現する原動力となってきた。そして「最小限のフォルムで最大限の美」を創造し、モード界に君臨してきたジル・サンダー氏をも動かしたのだろう。

 FR流のグローバリズムを実践する年齢、職歴、学歴も多様な人材が、ニューヨーク、ロンドン、シンガポールなど各国の現場でどのように協働しているか。23人をリポートした『ユニクロ思考術』(同)も刊行された。〈志や精神から出て来る大きなものがデザイン。それは既存の仕組みを変えるパワーを持つ〉(タナカノリユキ氏)などの発言から、社内の勢いがリアルに伝わる。

 柳井氏は、「若い人が現状を変える意欲を持たないと。売り場の一人ひとりが知識労働者になって、何が本当の課題か、日々見極めないといけない。とりあえず売れる商品、表面だけの結果を求めて、日本人は志が非常に低下している」と指摘する。

 一方で「経営は一種の総合芸術」と述べたパナソニックの創業者、松下幸之助に多くを得てきたと明かす。

 「松下氏や本田宗一郎氏はビル・ゲイツ、ジャック・ウェルチ氏らを超える起業家で経営者だと思う。池田勇人首相は(1962年に)フランスで、トランジスターのセールスマンと揶揄(やゆ)されたが、当時あった原始的な成長意欲が抜けて、日本はふわふわした文化国家に、実態は文化から最も遠い国になったんじゃないか」

 同じ年に生まれ、同時期に早稲田大学に在籍した村上春樹氏を愛読する。

 「村上さんも自営業から出発して作家になり、どうすればグローバルに自分の作品が理解されるか、ずっと一人で戦略を練って実行してきた。独力で自営し続けた人がもっと多ければ、日本は違う国になっていたかもしれない。サラリーマンが増え過ぎた。日本という恵まれたエレベーターに乗って、気がついたら止まっていた」

 来年、社内に「FR―MIC」(通称FR大学)を開設する。

 「私はFRを仕事と教育が一体化した人材創出企業に変えていきたい。本当に良い服を作って社会の役に立ち、世界に通用するビジネスマンを送り出していくつもりです」

 やない・ただし 1949年山口県生まれ。84年に「ユニクロ」第1号店を広島市に出店。2005年からFR会長兼社長。FRグループの社員数は約1万1000人。前著は『一勝九敗』。

(2009年10月21日  読売新聞)

『成功は一日で捨て去れ』

  • 柳井正
    出版社:新潮社
    発行:2009年10月
    ISBN:9784104642038
    価格:¥1470 (本体¥1400+税)
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