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井上靖の従軍日記発見

「神様!一日も早く帰して」

 「しろばんば」「天平の甍(いらか)」などの小説で知られる作家の井上靖(1907〜91年)が1937年から翌年にかけ中国に出征した際の従軍日記が、東京都世田谷区の遺族宅で見つかった。昭和を代表する作家が、戦場で体調を崩し、除隊を待ち望む一兵士だった事実を伝える貴重な資料だ。

 従軍日記は、当時勤めた大阪毎日新聞の社員手帳に鉛筆で書かれた。召集令状の届いた37年8月25日に始まり、中国に送られ、日本へ病気送還された後の翌年3月7日までつけられた。

 井上の身分は、二等兵扱いの特務兵。日記によると、10月7日から北京郊外の豊台から250キロに及ぶ行軍に参加し、途中、気管支カタルや激しい下痢に苦しめられた。「気を強く持たぬと死んで了(しま)ふ」(同18日)、「話は召集解除の話ばかり。神様!一日も早く帰して下さい」(同19日)などと、悲痛な文面が続く。

 武器や弾薬の補給部隊に所属し、戦闘には遭遇していない。だが、ヨウカンなど甘いものに飢え、仲間の兵隊が現地で豚を徴発する姿を見たり、「非常呼集!(略)死ぬも生きるも時の運といふが、時の運ではなく既に生れるとき定つた運命であろう」(11月11日)と、覚悟したこともあった。

 今回の日記を見つけた井上さんの長男でプール学院大学長の修一さんは「父の小説に従軍体験を直接記したものは多くないが、深刻な記憶を残したことをうかがわせる」と話す。日記は、来月7日発売の文芸誌「新潮」12月号に掲載される。

(2009年10月27日  読売新聞)

『しろばんば』

  • 井上靖
    出版社:新潮社
    発行:2004年5月
    ISBN:9784101063126
    価格:¥780 (本体¥743+税)
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『天平の甍』

  • 井上靖
    出版社:新潮社
    発行:2005年8月
    ISBN:9784101063119
    価格:¥420 (本体¥400+税)
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