若き抵抗 訪問者の視点で
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「ここに書いたのは僕の沖縄。自分の中に取り込んだものが、自分なりのフィルターを通して出てくる」
池澤夏樹さんが、沖縄を舞台にした長編『カデナ』(新潮社)を刊行した。10年間住み、「自分に書ける沖縄小説は何か」をさがしていたという。(山内則史)
ベトナム戦争さなかの沖縄から小説は始まる。米軍人を父に、フィリピン人を母に持つ米軍カデナ基地勤務の女性曹長フリーダは1968年夏、B―52の空爆情報を事前に基地外に持ち出す危険な仕事を始める。この仕事のリーダーでベトナム人の安南、太平洋戦争ですべてを失い〈死者たちと共に生きてきた〉安南の旧友の嘉手刈朝栄、地元ロックバンドの青年タカ。4人の連携によるスパイ活動がフリーダ、朝栄、タカの個性的な語りのリレーでつづられる。
沖縄には95年から住んだ。「毎日毎日人と接して勉強して、素材としてはたまっていくけれど、日々の流れを止めて、この素材で何が組み立てられるかというのは、沖縄にいても距離が近すぎて案外考えないものです」
また沖縄には大城立裕、又吉栄喜、目取真俊さんら風土と歴史に根ざした作家たちがいる。「僕は訪問者ですから、そこで生まれ育った彼らの目と張り合っても負けるに決まっている」
沖縄に対して「ちょっとずれた視点」がほしいと考えていた数年前、ベトナム戦争に関する記事で、米軍の北爆情報が基地の中からベトナム側へ流れていたことを知る。それはカデナだろう――。想像は膨らみ、ベトナムで戦火にさらされる人を一人でも減らしたいと願うデラシネ(根無し草)のような4人によるスパイの物語が生まれた。
「若者たちの間で抵抗の思想が盛り上がったのは68年までで、その後は世界全体が老人政治に戻ってしまった。僕の世代には、あの時代への思い入れがある。68年は事件の密度があって、面白い話を作りやすかった」
フリーダは少女時代にマニラで戦争の悲惨を体験し、彼女の恋人パトリックはB―52の機長として、攻撃する側の苦悩を抱える。個人が国家に引き裂かれ、二重性を負った物語でもある。
また基地にいるのはこの地に来て、いずれ去っていく人びと。定住者でなく移動し旅する者として、「訪問者の目から見た土地」を書いてきた作家の視点は、この小説でも生きている。
「僕は土地の魅力に対してのみ、とても敏感です。そうか、そうなっているのかと少しずつ分かっていくのが好きなんですよ。今は沖縄の人たちがこれをどう読むか、気になります」
5年住んだフランスからこの夏札幌に移った。帯広生まれの池澤さんにとって58年ぶりの北海道。「住むと言ってもだれも信用してくれない」と苦笑する。現在は南極海を舞台に新聞小説「氷山の南」を連載中。旅は、小説の中で続いている。
(2009年11月4日 読売新聞)
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