【エンターテイメント小説月評】終末論信じた世代の「闇」
2012年に世界が終わる。最近流布しているマヤ文明の暦に基づくという終末論のうさん臭さにうんざりする40代は多いのではないか。
「一九九九の年、七の月 空から恐怖の大王が降ってくる」というノストラダムスの大予言へのトラウマを子どもの頃植え付けられた記憶を持つからだ。
粕谷知世『終わり続ける世界のなかで』(新潮社)は、この「予言」に振り回された1969年生まれの女性の心の軌跡を追う。小学5年生のときテレビ番組でノストラダムスの予言を知った伊吹は、現実の風景の中に地獄の幻を見るようになり、世界を救うことを誓う――。
思春期の女の子の人間関係や妻子ある男性との不倫に悩んできた伊吹は、終始等身大の女性として描かれる。ただ彼女の心の鏡は、聖書の黙示録の悪夢も、核兵器の開発競争の行く末も映し出し、終末を自ら選び取ろうとする人類とは何かと思索し続ける。その純粋さは、『風の谷のナウシカ』『AKIRA』といった未来の世界大戦後を舞台とするアニメやマンガにもひかれてきた世代の、精神の闇にもつながるのだろう。
オウム事件の指名手配犯を17年
梶よう子『夢の花、咲く』(文芸春秋)は、朝顔栽培に情熱を燃やしながら、江戸北町奉行所の閑職に置かれた朝顔同心・中根興三郎が活躍する。ありきたりの時代小説と違うのは、安政の大地震に見舞われた江戸庶民の感情に迫ったこと。
ナマズの絵で世情を風刺した瓦版が飛び交う町の騒然とした空気は、今をほうふつとさせる。「御救い小屋」で被災者を気遣う興三郎の優しさにも、東日本大震災のボランティアを連想し胸が熱くなった。幾多の災害に遭いながら、たくましく立ち直ってきた日本人の歴史の連なりを思う。
謎をはらんだ緊迫の展開とともに、息子を女一人で育ててきた早苗の家族とお調子者の修二がふれ合う温かさがにじみ出る。悪意ばかりの「いやミス」なんて呼ばれるミステリーがはやる中で貴重にも見える飾らぬ人情に、ほっとさせられた。
一方、綾辻行人『奇面館の殺人』(講談社ノベルス)は、1980年代後半、謎解き推理を復活させ「新本格」ムーブメントの火付け役となった館シリーズ最新刊。山中の館に、自分の「分身」を探す主人から6人の男が招かれる。
吹雪で孤立した建物で起きる怪事件というミステリーの古典的手法に立ち戻った作者。それだけじゃすまないだろうとの期待は裏切らない。鍵のかかった仮面で容疑者がみな素顔を隠す<前代未聞>の舞台を作り上げたサービス精神に感服!
誰が本当に死んだのかも分からなくなる異常な状況下での推理も、論理を追う楽しさがあふれる。2012年年頭にふさわしい本家本元の力作を前に、本格推理はまだまだ「終わらない」と確信した。(文化部 佐藤憲一)
★5個で満点。☆は1/2点。
粕谷知世『終わり続ける世界のなかで』
同世代の共鳴 ★★★★★
文学性 ★★★★
満足感 ★★★☆
梶よう子『夢の花、咲く』
震災後の世相 ★★★★☆
主人公の魅力 ★★★★
満足感 ★★★☆
横関大『チェインギャングは忘れない』
人間くささ ★★★★☆
スピード感 ★★★☆
満足感 ★★★★
綾辻行人『奇面館の殺人』
前代未聞度 ★★★★☆
びっくり度 ★★★★☆
満足感 ★★★★☆
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