『逡巡』 せきしろさん
情感が蒸発する掌編
「知らない著者だけど、何だか面白い」。読書委員の一言が気になり、翌日、手に取った。
確かに奇妙な掌編小説40編が並ぶ。例えば「涙」という一編――。
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抑えた書き出しから始まる作品は、肉親との別れを静かにつづる。……かと思いきや、情感は理不尽にも一瞬で蒸発してしまう。
「そうすね。書いてると飽きてきて壊したくなって」。著者は、むやみにゆっくり話す人だった。「ほとんど毎日、ベッドで寝てます。ずっと天井を見たり、外をほっつき歩いて『ここに整骨院ができたか』と確かめたり」
1970年、北海道生まれ。中学では「けんかの強い人が一番の時代。格好をつけていた」。高校では「少女漫画にあこがれ、ぶっきらぼうにしたけど全然だめだった」。受験で上京し、「レコードとか死ぬほど売ってた。楽しくて」。そのまま居着いたという。
一時、福島大に入って除籍になり、ラジオパーソナリティーの伊集院光さんの下で放送作家の修業をしたが、長くは続かない。雑誌ライター、ラジオ構成などの仕事を経て、今に至る。一方、読書好きのタレントで知られる又吉直樹さんとの共著の自由律俳句集『まさかジープで来るとは』を出すなど気になる存在だ。
<荷物を股に挟んで拝む>
自由律の存在は、高校時代の国語便覧で知った。好きな俳人は、<咳をしても一人>の句で知られる尾崎放哉。作家は、新感覚派と呼ばれる横光利一に、小説の神様、志賀直哉と話す。
ならば今後も、歯ごたえのない時代に漂う人間の寄る辺ない感覚を書き続けてほしい。期待は高まるが、「目標はありません。こんな感じでも生きてゆけることが伝われば」。(新潮社、1500円・待田晋哉)
◆次回は『番犬は庭を守る』(幻冬舎)の岩井俊二さんです
(2012年2月14日 読売新聞)
- 『十津川警部とたどる時刻表の旅』 西村京太郎さん (5月29日)
- 『むかし原発 いま炭鉱』 熊谷博子さん (5月22日)
- 『<銀の匙>の国語授業』 橋本武さん (5月15日)
- 『驚きの介護民俗学』 六車由実さん (5月1日)
- 『チャイコフスキーがなぜか好き』 亀山郁夫さん (4月24日)
- 『檀れいの今残しておきたい、日本の美しいものたち』 檀れいさん (4月17日)
- 『わるいことがしたい!』『月の少年』 沢木耕太郎さん (4月10日)
- 『すべてのマラソンランナーに伝えたいこと』 瀬古利彦さん (4月3日)
- 『日本映画時評集成 2000―2010』 山根貞男さん (3月27日)
- 『神様のラーメン』 多紀ヒカルさん (3月20日)
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