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書評

  • 『美しい都市・醜い都市』

    五十嵐太郎
    出版社:中央公論新社
    発行:2006年10月
    ISBN:4121502280
    価格:¥798 (本体¥760+税)
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日本橋よりすごい首都高

 日本の都市景観は醜い。電柱が乱立し、電線はまるで蜘蛛(くも)の巣。美しい建物も本体は見えず、看板や広告が雑然と町並み景観をつくっている。西洋の整然とした町並みにならって、美しい景観を取り戻さねば……。こう日本の景観を糾弾し、変革を求める声は多い。2004年、美しい町づくりのための景観法もできた。そんな中、東京・日本橋の上をまたぐ首都高速道の移設計画が浮上した。小泉前首相が計画を国家プロジェクトとして検討する会議を発足させ、地下への移設方針が決議されたのである。

 だが、こうした風潮に著者は敢然と反論する。日本の都市景観は本当にひどいのか。首都高は本当に醜いのか、と。移設推進派は「日本橋の風景を取り戻す」と言うが、一体いつの景観を取り戻すのか。明治時代の末に一生懸命西洋を真似てつくられた日本橋と比較すると当時「世界の道路技術者をうならせた」首都高速道路の方がすごいんじゃないか。大都市中心部の高架高速道路は西洋にも類例がない。日本の土木技術の粋を集めてつくられた、近代日本が誇るモニュメントではないか。

 首都高はなくすのではなく地下に移設する計画だ。その費用はなんと5000億円。バブル建築だと叩(たた)かれたあの巨大な都庁舎でも建設費1569億円という。だから著者は移設案はかたちを変えた「ハコモノ行政」だと指弾する。さんざん道路造りを批判しながら結局また道路造りかい、というわけだ。

 1000年後に、日本橋と首都高のどちらが評価されるだろう。著者はこう問いを投げかけ、きっぱり首都高に軍配を上げる。ローマ時代の水道橋と同じく、日本人のやり遂げた土木技術の達成として感銘を与えるだろうという。

 「美しい」というもともと主観的な言葉に国土や都市や日々の生活まで従わせようとする議論が横行しているなか、刺激的だが冷静な議論を求める重い一石を投じた景観論である。

 ◇いがらし・たろう=1967年パリ生まれ。東北大助教授・建築史。

中公新書ラクレ 760円

評・白幡洋三郎(日文研教授)

(2006年11月20日  読売新聞)