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書評愛と憎しみの諸行無常なあ、どうして人間は争い、殺しあうんだ? どうして、愛し、憎み、だまし、試し、ときに許しあうんだ? 『平家物語』はその疑問に対して、「諸行無常」だからだ、と答えた。「諸行無常」と四文字で明確に表されると、なんとなく、「そうなのか」とわかったような気になる。 しかし、その「諸行無常」の実態とは、はたしてなんなのか。それを徹底的に解釈しつくす試みが、『双調 平家物語』だと思う。 全十五巻というこの大著は、中国の皇帝の話からはじまり、やがて日本の古代に舞台を移して、平家滅亡に至るまでの歴史を丹念に語る。ここで言う歴史とは、「人間関係」だ。どういう感情と思惑が交錯したのか、「その結果生まれた男」を「生んだ女」はだれなのか。年表や教科書が語ろうとしない、「母と子の系譜」「男と男の系譜」を解き明かす。 平重盛と藤原成親の、粘つききらめく愛憎を見よ。「共に死のうぞ!」、今井四郎兼平に向かって放たれる、源義仲の叫びを聞け。そして、それらすべての男を生み、愛し、じっと眺める、すべての女の血の流れを感じ取れ。 これまで見ないふりをされてきた関係や感情や存在について、『双調 平家物語』は語って語って語りまくる。その関係や感情や存在こそが、人間が抱える「どうして」という疑問の発生源となり、同時に疑問の答えとなるものなのだ、と全編を通して訴えかけてくる。 嘆きと歓喜、感情と思考、行為と結果が繰り返され、綿々とつづいてきた流れ。その流れを見据えて、ある一人の登場人物が沈黙した瞬間、鐘の響きも完全に消える。 「諸行無常」の四文字で表される人間関係は、すべて語りつくされた。響く鐘の音を聞いた読者(私)は、あとに残った沈黙のなかで、今度はそれぞれの物語、それぞれの人間関係を、自分で考え、語りださなければならない。 ◇はしもと・おさむ=1948年生まれ。 中央公論新社 1600〜3200円 評・三浦しをん(作家) (2007年12月17日 読売新聞) |
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