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書評日本こそ人種のるつぼおよそ10万年前、アフリカの洞窟(どうくつ)でその書物は生まれ、時を隔てて写本が作られた。写本はよその土地へ運ばれ、行く先々で別の写本が生まれた。写本は全世界に散らばって今に至る。写本と写本を比べその細かな差異を調べると、写本の系譜が判明し、それらがいつどの枝から分岐したのかがわかる。 私がここで写本といっているのは、男が運ぶY染色体のことである。母系で受け継がれるミトコンドリアの解析は、人類すべての祖先がアフリカで生まれたひとりのイブであることを明らかにした。一方、Y染色体の多型解析は、その後の人類の軌跡を鮮やかに照らしだした。これまでの常識はことごとく塗り変えられた。 イブの子孫たちは、三回にわたって出アフリカを果たし、ヨーロッパ、インド、アジア、そして北米、南米へと移動した。その途上、あるものたちはそこに留(とど)まり、あるものたちはさらに進んだ。後から来たものたちとの間で諍(いさか)いが生じた。アフリカに留まったものたちを含め、現在、人類のY染色体の写本は、18のタイプに分類される。世界の各地域ごとに多型解析をすると、このうちどの系統が優勢かによって、出アフリカ何回目のどの枝の子孫かが判明する。いわゆる白色人種、有色人種といった分類は決定的な誤りであり、その内部の多様性こそに意味がある。 もっとも興味深いのは日本人の解析である。DNAから見ると、出アフリカを果たした三つの系統が流れ流れて分岐したあと、もう一度落ち合った特別な場所として日本列島が現れる。日本こそが“人種”のるつぼなのだ。各流入は、石器や金属器など新しい文化や言語に対応する。県ごとにタイプの勢力が異なる。意外なことにアイヌや琉球民の内部にも多様性が混在する。自分のルーツはどの系譜なのか。あれこれ想像しながら本書を読み進めると次から次へと興味が湧(わ)いてとどまることがない。 ◇さきたに・みつる=1954年生まれ。CCC研究所長。文化、言語の多様性を研究。 昭和堂 2300円 評・福岡伸一(分子生物学者) (2008年2月12日 読売新聞) |
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