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書評知られざる米国思想家もしもオバマ大統領が哲学者だったら、きっとローティ(1931〜2007)のような思想を語るのではないか。そう思うときがある。 保守的なリベラル、理想を語るプラグマティスト、自国の正義を絶対視しない愛国者……。一見相反する立場を折衷させるオバマの思考モードにローティを重ね合わせては、現代米国を代表するこの知識人が、わが国の論壇でほとんど無名なことがもどかしかった。 そんなとき手にしたのが、日本の若き思想史家によるこの好著。これまで個別専門的に論じられてきたローティの知的営為の全体像と一貫性を照射する骨太の評伝だ。 米国の伝統である分析哲学やプラグマティズムとヨーロッパの伝統である懐疑主義の融和に果敢に取り組んだローティ。近代的な自由主義や民主主義を擁護しつつも、その偶然性を冷徹に正視した「リベラル・アイロニスト」としての姿勢を「ミルの仮面をかぶったニーチェ」と著者は巧妙に喩(たと)える。 1990年代以降、ローティは政治への関与を強め、穏健な社会民主主義的な左翼(=リベラル)の立場から、国家や資本主義を否定する「新左翼」や「文化左翼」を糾弾した。ポストモダンの批判精神を評価しつつも、その過剰がもたらすシニシズムに警鐘を鳴らし、米国における「希望」の再生を唱えた。 同時多発テロ後、アフガニスタンへの米国の軍事行動を肯定した点もオバマと重なる。「左翼」が戦争を支持する政治的構図や思想的背景を理解するうえでも本書は有用だ(ただし、ローティは、オバマ同様、ネオコン主導のイラク戦争には強く反対した)。 欲を言えば、ローティに対する著者自身の違和感や批判をもっと知りたい気もする。 しかし、ワンフレーズ型の軽い論考が氾濫(はんらん)する「ゼロ年代」にあって、本書が異彩を放っていることは一読明快であり疑う余地はない。 ◇おおが・ゆうき=1980年生まれ。早稲田大学社会科学研究科博士課程在籍。専攻はアメリカの哲学・政治思想。 藤原書店 3800円 評・渡辺靖(文化人類学者) (2009年11月16日 読売新聞) |
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