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書評人生を引き受ける決意主人公の上原菜月は三十八歳。二歳年上の夫、光と暮らす。専業主婦。子供はない。 冒頭に「買いもの道」という面白い言葉が出てくる。「いちばんよく行くスーパーマーケットである丸鷹を起点として、ほぼ毎回のぞく小店の並ぶ大きな楕円形の道筋」がいつも決まり切っているので、まるで「主婦のけもの道」のようだと、心の中でそう呼んでいるのだ。 平凡で平穏な日常。遠目に見ればたしかにその通り。けれどもそれが上原菜月(あるいは、私、あなた)というひとりの人間の固有の日常であるかぎり、近づけば揺れるものが見えてくる。噴き出しているものも。じくじくと染みだしているものも。義母の滞在、義父の入院という「よくあること」も、クローズアップすればグロテスクな様相を呈しはじめる。 買いもの道の途中で勧誘されて、菜月は、奇妙な会合に参加する。その名も「これでよろしくて? 同好会」。六十代から二十代まで取り混ぜた、正体不明の四人の女たちとともに、毎回、用意された議題――「息子の部屋を訪れたら息子ではなく彼の友人がいて、見知らぬ女の子と寝ていた場合、どうすればいいか」「友人夫婦宅に泊めてもらったが、風呂から上がると夫はゲーム、妻はネットに没頭している、客の私はどうしたらいいか」等々――を大真面目(まじめ)に論じ合うことになる。 ユーモラスなやりとりの中で、菜月とともに、私たちも気づくだろう。日々とは、暮らしとは、闘いの連続なのだ。闘いかたは人それぞれだし、何をもって勝利(あるいは敗北)とするかも、十人十色であるとしても。 謎の女四人の造形が秀逸。無垢(むく)で頑(かたく)なな二十代、「おほほほほ」と鷹揚(おうよう)に笑う六十代。もしかしたらこれは、過去の私、未来の私なのではないか? そんな幻惑とともに、人生の複雑さと厄介さ、だからこその面白さ、それを引き受ける決意と意欲が生まれてくる。 ◇かわかみ・ひろみ=1958年、東京都生まれ。96年「蛇を踏む」で芥川賞。2001年、『センセイの鞄』で谷崎潤一郎賞。 中央公論新社 1350円 評・井上荒野(作家) (2009年11月16日 読売新聞) |
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