ニュース 速報 YOMIURI ONLINE(読売新聞)
@本よみうり堂メニューです
現在位置は
です

本文です

書評

  • 『これでよろしくて?』

    川上弘美
    出版社:中央公論新社
    発行:2009年9月
    ISBN:9784120040573
    価格:¥1418 (本体¥1350+税)
    この本を買う

人生を引き受ける決意

 主人公の上原菜月は三十八歳。二歳年上の夫、光と暮らす。専業主婦。子供はない。

 冒頭に「買いもの道」という面白い言葉が出てくる。「いちばんよく行くスーパーマーケットである丸鷹を起点として、ほぼ毎回のぞく小店の並ぶ大きな楕円形の道筋」がいつも決まり切っているので、まるで「主婦のけもの道」のようだと、心の中でそう呼んでいるのだ。

 平凡で平穏な日常。遠目に見ればたしかにその通り。けれどもそれが上原菜月(あるいは、私、あなた)というひとりの人間の固有の日常であるかぎり、近づけば揺れるものが見えてくる。噴き出しているものも。じくじくと染みだしているものも。義母の滞在、義父の入院という「よくあること」も、クローズアップすればグロテスクな様相を呈しはじめる。

 買いもの道の途中で勧誘されて、菜月は、奇妙な会合に参加する。その名も「これでよろしくて? 同好会」。六十代から二十代まで取り混ぜた、正体不明の四人の女たちとともに、毎回、用意された議題――「息子の部屋を訪れたら息子ではなく彼の友人がいて、見知らぬ女の子と寝ていた場合、どうすればいいか」「友人夫婦宅に泊めてもらったが、風呂から上がると夫はゲーム、妻はネットに没頭している、客の私はどうしたらいいか」等々――を大真面目(まじめ)に論じ合うことになる。

 ユーモラスなやりとりの中で、菜月とともに、私たちも気づくだろう。日々とは、暮らしとは、闘いの連続なのだ。闘いかたは人それぞれだし、何をもって勝利(あるいは敗北)とするかも、十人十色であるとしても。

 謎の女四人の造形が秀逸。無垢(むく)で頑(かたく)なな二十代、「おほほほほ」と鷹揚(おうよう)に笑う六十代。もしかしたらこれは、過去の私、未来の私なのではないか? そんな幻惑とともに、人生の複雑さと厄介さ、だからこその面白さ、それを引き受ける決意と意欲が生まれてくる。

 ◇かわかみ・ひろみ=1958年、東京都生まれ。96年「蛇を踏む」で芥川賞。2001年、『センセイの鞄』で谷崎潤一郎賞。

中央公論新社 1350円

評・井上荒野(作家)

(2009年11月16日  読売新聞)