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『アメリカ大都市の死と生』
ジェーン・ジェイコブズ著 山形浩生訳
出版社:鹿島出版会
価格:¥3465 (本体¥3300+税)
街の現場からの問い
待望の完訳。1961年刊行の本書はアメリカの都市計画を変えるほど衝撃を与えた。にもかかわらず既訳は前半部分だけで、読者は長らく隔靴掻痒(かっかそうよう)の思いを味わってきた。衝撃を与えた訳は、それまでの、いや現在も続く都市計画の方法と理念を徹底的に批判したからである。
例えば、あなたは便利で緑も多い郊外に住みたいと思うかもしれない。ゴミゴミした下町は高層アパートや高層ビルを建て、周囲を緑にすればと考えるかもしれない。これは「田園都市」論やコルビュジエの「輝ける都市」の考え方。今なお公も開発業者もこの理念を掲げて街を一変させる。だからあなたはこの都市開発には反対かもしれない。
ジェイコブズはしかし、感情的に抗議したわけではない。アマチュアの彼女は理論に囚(とら)われない。武器は自分の暮らす街と新聞記事。街の人々の付き合い、街路で遊ぶ子どもを誰が見守るのか。車の制御は。人の集まる街路は、店舗は、公園は。他の街は。スラムにも安全な街があるのは。郊外は安全か。古い建物が混在した街はなぜ生き生きしているのか。使われない公園の立地は。大規模に開発された街はなぜ一気に廃れるのか、など克明に報告する。
彼女は街路を重視し、都市の複雑さと背後の秩序を見つめる。従来の開発はこの秩序を壊したと。と同時に本書は実践への手引書だ。現場無視の計画、法律の不備、資本の流れを考察し、提案し、市民活動への力となり、一部は常識になった。
翻訳は明快で文章も易しいが、かなり読み難い。この矛盾は分析と戦略があまりに具体的で、かえって当時のアメリカの都市をイメージし難いためだ。今後は批判を含め、本書の新解釈もなされるだろう。それほど古典としての重みをもつが、何より街の現場から問いと答えを発見する方法は受け継ぐべきだ。訳者の解説は時代背景と彼女の他の著作にも触れ、必読。山形浩生訳。
◇Jane Jacobs=1916〜2006年。アメリカ生まれ。都市研究家、作家。著書に『都市の経済学』『壊れゆくアメリカ』。
鹿島出版会 3300円
評・松山巖(評論家・作家)
(2010年5月10日 読売新聞)
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