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『レンタルチャイルド 神に弄ばれる貧しき子供たち』
石井光太
出版社:新潮社
価格:¥1575 (本体¥1500+税)
人の尊厳支える思い
手足の鳥肌が収まらなかった。のっけから体中を疣(いぼ)で覆われた物乞(ものご)いの自慰を手伝う片目の男が登場する。幼い時に金を払えとマフィアに目を潰(つぶ)されたのだ。インド・ムンバイの路上には、手足を切断されたり目をえぐられた子供がいる。その子らの一部は、かつてレンタルチャイルドだった。マフィアが拉致した赤子を老女に貸し出すのだ。赤子がいたり、障害があるとより多くの喜捨が手に入る。そのように搾取されていた子が10代になると自らが暴行や強姦(ごうかん)を繰り返すようになっていく。目を背けたいのに、頁(ぺーじ)を捲(めく)るのをやめることができない。
なぜこんなことを取材するのか。当初は障害者の実態が表に出てこないことに疑問を持ったというが、だんだんと著者自身もわからなくなっていく。通常だったら遠い世界のかわいそうな奇異な話で終始していたかもしれない。
だが、著者は地を這(は)う取材により、普遍的な主題をあぶり出していく。レンタルチャイルドが身体を傷つけられるなら代わってあげたいと話す女性の物乞い。親に売春させられている少女が父を庇(かば)い、取材協力の金をもらうことさえ拒んだ時の毅然(きぜん)とした態度。著者を紹介したことで暴行や強姦を受けた10代の売春婦が、謝る著者に「あんたのせいじゃない」と言う。自身の瀕死(ひんし)の写真や処方箋(せん)を売るような仲間であっても「独りぼっちよりはいい」と語る子供。死期を察して飢えた仲間のために食べることをやめる病人たち。そしてひとりを救っても意味がないと言っていた冒頭の片目の男が、身寄りがなくなった少女を引き取ろうと申し出る。
人間はどこまでも残忍になれる一方、極限のところにおいて尊厳高く振る舞うこともできる。支えているのは自分が人から必要とされているとの思いだ。鳥肌は消えていた。底辺の悲惨な社会問題だと思って読み始めたものが、いつの間にか自身のこととして人間の有り様について考えさせられていた。
◇いしい・こうた=1977年、東京生まれ。ノンフィクション作家。著書に『物乞う仏陀』『神の棄てた裸体』。
新潮社 1500円
評・河合香織(ノンフィクション作家)
(2010年5月24日 読売新聞)
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