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『アンフォルム 無形なものの事典』 イヴ=アラン・ボワ ロザリンド・E・クラウス著

評・椹木野衣(美術批評家・多摩美大教授)

現代美術の巨星を再読

 この本の成り立ちは、一九九六年にパリのポンピドゥー・センターで開かれた同名の企画展にさかのぼる。

 展覧会の組織者でもあった二人の美術批評・美術史家は、図録を兼ねて独立した著作として読み継ぎ得る論争的な一冊を世に問うた。実際、本書ではフォンターナからフォートリエ、ポロックからウォーホルに至る現代美術の巨星たちが、従来とはまったく異なる姿で再読されている。

 書名「アンフォルム(無形)」は、フランスの思想家ジョルジュ・バタイユが自著のなかで使った言葉から取られている。現代美術の世界では他に「アンチフォーム(反形)」という動向があり紛らわしいのだが、「アンフォルム」は、先行するモダニズムの形式主義的な方法論に単に反撥(はんぱつ)するものではない。同じバタイユの著書に『非―知』があるように、「無形」とは、「正/反」からなる相互依存的な二項対立の外にある「非形」であり、本書に倣えば「悪い形」なのだ。

 となると、著作の構成も従来並というわけにはいかない。「低級唯物論」「水平性」「パルス」「エントロピー」の四項目からなる本書が、部分的に主題を重ねながら細部へと分岐し、全体として語りがループする構成をとっているのはそのためだろう。副題に「無形なものの事典」とあるとおり、本書はどこから読むこともできるし、実のところはっきりとした終わりも始まりもない。この本そのものが積極的に「アンフォルム」たろうとしている。

 ところで、バタイユに強い影響を受けた美術家に今年、生誕百年を迎えた岡本太郎がいる。バタイユ最大の論敵は西洋形而上(けいじじょう)学の大成者ヘーゲルの歴史哲学であった。太郎が戦後、みずからが目指す芸術を「ベラボーなもの」と呼び、そこに「意味なんかない」と語ったのと「アンフォルム」とのあいだには、どうやら意外な接点がありそうだ。加治屋健司ほか訳。

 ◇Yve‐Alain Bois=米プリンストン高等研究所教授。
 ◇Rosalind E. Krauss=米コロンビア大学教授。

 月曜社 3200円

2011年4月11日  読売新聞)
 

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