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『深沢七郎外伝』 新海均著

評・角田光代(作家)

 かつて小説『風流夢譚(むたん)』を書き、天皇家を冒涜(ぼうとく)したと右翼に追われ放浪、その後農場を作り、ギターを弾き、団子屋をはじめた深沢七郎その人を、彼の幾多の著作よりも物語的だと思っていた。だからこそ、彼にかんする本がこんなにも多く出ているのだろう。本書もその一冊なわけだが、そのほかのものと異なるのは、深沢七郎の死後まで続く物語を描き出している点だ。

 物語、といってもフィクションではない。事実だ。七郎死後、彼の興したラブミー農場でともに暮らした青年ヒグマ、ヤギの消息。高価な屏風(びょうぶ)や美術品、作家の愛したギターの行方。未発表原稿発見にまつわる謎。今もファンによって続けられるコンサート。七郎のまわりに呼び寄せられる人々の清も濁も描かれる。生前の彼が、清濁のどちらをも、その矛盾ごと有していたように。

 深沢七郎が書く小説は残酷でやさしくて、どうしようもない人間臭を漂わせている。彼自身も、彼と関わった人たちも、おなじにおいを発している。深沢七郎という物語は、今も続いている。(潮出版社、2095円)

2012年2月20日  読売新聞)

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