「手押しポンプ」に力 中川区の東邦工業 溝口喜公(みぞぐち・きこう)社長 52
ハンドルを上下させて井戸水をくみ出す鋳鉄製の「手押しポンプ」は、父親が鋳物工場を創業した一九三六年当時から作り続けている製品だ。「でも、手押しポンプのすごさを再認識したのは、ここ十年くらいのことです」と振り返る。
不況で主力のビル設備用バルブの需要が落ち込んだ。営業戦略を見直した時、七十年近くにわたって、基本的な形状や構造がほとんど変わっていない手押しポンプに気づいた。「こんなに完成度が高く、寿命の長い自社製品を生かさない手はない」とひらめいた。
折しも、阪神大震災をきっかけに、人力の井戸ポンプが災害非常用として注目され始めた。ガーデニングブームで、庭に散水用の井戸が欲しいという人も出てきた。設計会社や造園会社、官公庁などから直接問い合わせが来るようになり、潜在需要があると確信した。
「昔懐かしい」をキャッチコピーに、商社に卸して問屋や水道工事店経由で売る従来の販売方法に加え、近県のホームセンターに納入したり、インターネット上で販売したりする試みを始めた。手押しポンプの生産台数は、この四年間で二倍に跳ね上がった。
製品そのものには、長年の生産実績で培ったノウハウが生きている。厚さ約三ミリという円筒形の本体も、均一な量産品として加工するには、高度な設備や技術だけでなく「わずかな違いを見分けて調節できる“勘どころ”の蓄積が大事」という。現在は、鋳造部門の大部分を協力工場などに委託しているが、ノウハウを確実に伝え、高品質の手押しポンプを実現している。
今や、手押しポンプのトップメーカーとして知られるが、「売るだけでなく、ビオトープ(池や小川など生き物が生息できる環境)づくりなど、多様な活用方法を提案し、手押しポンプの需要のすそ野を広げていきたい」と熱く語る。