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夢への舞台守る誇り6月中旬の青森市営球場。グラウンドキーパーの坂本真一さん(23)が、トンボを手にグラウンドに出た。厚手のパーカーにスタジアムジャンパーまで着込んだ季節はずれの格好。トンボを押し引きし始めると、すぐに汗が噴き出した。 「暑くてしんどいけれど、ここで慣れておかないと、大会の2週間、いい仕事ができないから」 大会期間中、球場は40度近くに達することもある。減量中のボクサーを思わせる厚着は、そんな過酷な夏に備えたものだ。 高校卒業後、市文化スポーツ振興公社に就職。すぐにグラウンドキーパーに配属された。今でこそ球場の“守り手”として高校野球が頭を離れることはないが、「最初は仕事がどうしても好きになれなかった」。野球を心理的に受けつけなかったためだ。 小学低学年の時、キャッチボールの最中に硬球が頭を直撃し頭骨が変形するけがを負った。それを機に芽生えた野球への忌避感。以前はよく見ていた野球中継も、始まるとチャンネルを変えるようになった。 だが、グラウンドキーパーとして迎えた2年目の夏、野球との距離が一気に縮まった。仕事を覚えるので精いっぱいだった1年目には感じ取れなかった球児の思いを知ったからだ。 「俺がちゃんと捕球していれば……」。声をあげて悔し泣きする選手。真っ赤に目を泣き腫らし、言葉も出ない選手。敗れたチームの選手がベンチ裏で見せる人間模様に衝撃を受けた。 「泣くほど悔しいのか。甲子園って、そんなに大事な夢なのか」――。グラウンドキーパーの誇りと責任を痛感した。 土の状態ひとつでバウンドが変わり、失策やけがにつながりかねない。痛恨のエラーで、つかみかけた甲子園切符が逃げていく。「その選手は生涯、この球場を恨むかもしれない。僕が整備した球場でそんなことはあってほしくない」 球児へのそんな思いを胸に、毎日、手を土まみれにする。見たくもなかった野球中継も今では、ボールの跳ね方を学ぶ教材だ。 「いいグラウンドをありがとう」。昨夏の決勝戦後、高野連関係者に言われたこの言葉をかみしめながら、熱気が去ったグラウンドに立った。達成感で自然と涙がこみあげてきた。 「これ、悔し泣きじゃないよな。うれし泣きだよな」 グラウンドを守り、選手の夢を守る。今年の夏も、最高の舞台に仕上げ、選手を迎えるつもりだ。 (木瀬武) (2009年6月30日 読売新聞)
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