![]() ![]() ![]() 波紋狂牛病 (5)診察の獣医師ら困惑 「病気の症状確認できず」(2001/9/29)
「牛が滑ったらしく、腰が立たないので診療してほしい」。後に狂牛病(牛海綿状脳症)感染が確認された乳牛を最初に診察した獣医師が、白井市の酪農家からの電話を受けたのは七月十九日朝だった。 だが、農場に駆けつけると、この牛は牛舎から出ており、しっかりと立って、エサを食べていた。獣医師は一通りの診察を済ませ、「異常なし」と診断した。 その日から十七日後の八月五日、再び白井市の酪農家から「今朝、また転んでしまった」との電話があった。獣医師が再び駆けつけると、牛の様子は先月とは明らかに違っていた。牛はまるで腰が抜けたかのように後ろ足を開いて地面に座り込んでいた。体を揺すったり、たたいたりすると、牛は懸命に腰を持ち上げようとするが、ふらついて立ち上がることができない。獣医師はくまなく診察したが、「病気の症状は確認できなかった」という。 折しも猛暑が続いていたこの日、酪農家はこの牛の処分を決め、獣医師に診断書を書くように依頼。獣医師は「牛舎で滑って起立不能になったと思われる」と記した。 翌六日午前八時ごろ、県内の食肉処理場に運ばれてきたこの牛は、と畜場法に基づいて、と畜検査員(獣医師)が生体検査をした。体温測定で、目盛りは少し高めの40度を示したが、聴診や触診ではこれといった異常は見当たらなかった。「起立不能と体温が40度という以外は異常はなかった」と検査員は振り返る。 その後、処理室で、別の二人の検査員が交代で、解体したこの牛の内臓や各部位を調べた。その結果、内臓全体が委縮しており、リンパ節がはれて出血が確認された。臓器が何らかの菌に汚染されていることは明らかだった。そのことから検査員は「敗血症」と診断し、頭部以外は茨城県内の飼料原料製造工場へと運ばれ、肉骨粉に加工された。 それから一か月以上過ぎた今月十日。獣医師、検査員のだれもが、問題の牛の存在を忘れていたころに、農水省、県が「狂牛病の疑い」と発表した。その後、この牛は二十一日、国内初の狂牛病と断定された。 狂牛病に感染した牛の頭部以外が焼却されず、肉骨粉に加工されたことについて、関係者の間では「獣医師の診察や食肉処理場の検査の段階で狂牛病と疑っていれば……」との声が上がっているのは事実だ。 だが、最初に診察した獣医師は「八月の時点で、あの牛を狂牛病と診断できる獣医師は100%いない」と断言。さらに、食肉処理場の検査員も「中枢神経が侵されたことによる震えや異常行動など、狂牛病と疑うような症状はなかった」と指摘する。 酪農県・千葉を揺るがせている狂牛病騒動。その感染ルートはいまだ特定されておらず、消費者の「食の安全」への不信感は解消されないままだ。国や県の「国内には狂牛病の感染はあり得ないことを前提にした検査」(山内一也・東大名誉教授)は、行政の無責任さを改めて印象付けた。失われた信頼を取り戻すためにも、国や県は、感染ルートの早期解明、感染防止・監視体制の確立を急がなければならない。(終わり) ◇ この企画は、会田一臣、福士由佳子、加藤理一郎、白石洋一、小坂一悟が担当しました。
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