(下)安全と地域医療の間で (2006年3月12日)
「1人体制」見直しの契機に 医師集約で質向上、偏在招くおそれも
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11日からの産婦人科休診を知らせる掲示。逮捕は地域医療にも影響を与えている(大熊町の県立大野病院で) |
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相馬市の公立相馬総合病院。唯一の産婦人科医である男性医師(42)は、年間約100件のお産を手掛ける。週に何度も急なお産などで夜間に呼び出されることもあり、片道30分以上かかる遠出は控えている。手術の準備、執刀、突発事態への対応などをすべて1人でこなさなければならず、休日は応援医師が来る月2日ほど。丸2年にわたり激務と緊張の日々を過ごしている。「1人はかなりたいへん。産婦人科は必ずヒヤリとすることがある。1人では事故が起きる可能性が高まる」と、常々感じている。
この男性医師と同様、病院で唯一の産婦人科医だった加藤被告が逮捕されたことで、医師の1人体制と医療の安全性の問題がクローズアップされている。県の事故調査委員会は、手術中の処置に問題があったことを指摘する一方で、「対応する医師の不足」を事故の要因として挙げ、「リスクの高い症例の手術に対しては、複数の産婦人科医師による対応及び十分な準備が必要」と提言した。
県立の会津総合、三春、南会津の3病院も産婦人科医は1人。面積の広い福島県で、人口が少ない地域の医療を支える役割は大きいが、一方で質の高い医療と安全性を求める患者のニーズも高まっている。医師の供給元になっている県立医大産科婦人科学講座の佐藤章教授は「今の配置は中途半端。(医師を集約化して)2人体制にすることは以前から検討していたが、今回の事件で加速した」と話す。同大では、医師を派遣している三春、会津総合の2病院については今夏までに医師を引き上げるなどして1人体制を廃止。地域性を考慮し、南会津病院には、応援の医師を派遣して、2人体制への移行を目指す意向だ。
ただ、医師の集約化は、医師の偏在化にもつながりかねず、経営上の問題など各病院間の思惑も絡んで実現へのハードルは低くない。地域医療を守るため、医師を広く薄く配置してきた県病院局は、「安全性確保の観点からは、集約化は必要」としながら「急激に進めると、地域医療の崩壊につながりかねない」として、慎重な立場を取る。
大野病院から約7キロ北には、常勤の産婦人科医が1人だけの中核病院があり、仮に、いずれかの病院に医師を集約し2人体制にすれば、「2人以上の仕事ができる」(佐藤教授)のは確実。だが、県立病院の産婦人科医1人当たりの医業収益は年間平均約1億3000万円の計算で、県病院局は「医師がいなくなれば、経営に極めて深刻な影響を与える」と話す。
この問題に関しては、「通院に時間がかかっても医師が複数いる安全な病院がいい」(21歳女性)、「できれば地元で産みたいので1人でも医師がいてくれたらと思う」(31歳女性)と、住民の反応も様々。県病院局は「リスクの高い症例には、県立医大などから応援を得て安全確保を図りたい」と“現実路線”を目指すことにしている。今回の事件が、地域医療にかかわる医師と行政、地域住民による活発な議論のきっかけになることを期待したい。(この連載は稲垣信、藤原健作、宍戸雄一郎が担当しました)