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(2)鉄道に絆をのせて 車窓の風景に興奮 

 「サンタさん、C62が欲しいです。ネットオークションで買えますのでよろしくお願いします」

 岐阜市内の小学校1年生・江崎壮(そう)君(6)はすでに一人前の「鉄ちゃん」。北海道・函館本線で活躍した蒸気機関車ニセコ号C62のおもちゃが絶版だと知り、〈入手方法指定〉でサンタクロースに心の中でお願いした。父の会社員宏樹さん(49)と妻江里子さん(44)は「困った息子です」と苦笑いを浮かべる。親サンタと祖父母サンタにもおねだりが待っていたからだ。

 江崎さん夫婦が新婚時代を過ごしたアパートは、窓辺からJR東海道線西岐阜駅のホームが見渡せる「一等地」だった。構内アナウンスも曇り無く聞こえ、通勤電車の遅延も自宅に居ながらにして把握できた。

 そんな環境で生まれた壮君は電車の音にぐずることもなく、自宅前を通過する車両に見入った。「親子共通の趣味は鉄道だな」。宏樹さんは心に決めた。

 実は、宏樹さんも父親が小学生の頃に買い与えてくれた鉄道模型をきっかけに、細々と鉄ちゃんの素質を養っていた。長らく封印していた趣味を妻に打ち明けると、江里子さんは「私も車に酔いやすいから電車が好き」と賛同してくれた。

 「しろ、あか、あお」。壮君は1歳を迎える前、こんな言葉を発した。自宅前を通過する貨物列車のコンテナの色だ。地名や景色など、鉄道を通じて覚える単語はすぐに増えた。家の窓から寝台車が見えると、江里子さんは「もう寝る時間」と壮君に言い聞かせた。

 宏樹さんは、実物の約150分の1に当たる線路幅9ミリのNゲージ模型にはまった。手すりなどの細かな自作パーツを取り付け、汚れや傷を加えて、精巧な模型を完成させることが痛快だ。集めるのは、東海地方の電車ではなく、旅行で乗車した地方の在来線。「思い出に浸れる模型が一番。通勤電車は現実に引き戻されそう」と笑う。

 一昨年の秋、ある図面が完成した。2階の書斎を貫く長さ約4メートルの台座が描かれている。JR岐阜駅からほど近い土地に建てる新築に全長8メートルのNゲージ専用線路を「敷設」するスペースを希望したのだ。住宅施工担当者も鉄道好きで、自分の夢を家の設計に落とし込んでくれた。

 現在、書斎には、親子3人で旅行した九州・有明海の風景が広がる。電車がトンネルを抜けると、美しい海辺と山並みが現れる。模型車両の先端に取り付けた小型カメラの映像をテレビ画面に映すと、車掌気分が味わえる。

 夏休みは必ず電車を乗り継いで巡る小旅行を楽しむ。北海道まで22時間の寝台特急の旅で、3人は一睡もしなかった。横になりながら車窓から見る風景、真っ暗闇を進む光景に興奮して、睡眠どころではなかった。旅行に同行したことがある祖母の和子さん(71)が「電車に乗ってばかり。観光地には行かないの?」とこぼすと、「電車に乗るのが目的なんだよ」と家族3人は口をそろえた。

 宏樹さんの将来の夢は、壮君と男同士で旅に出ることだ。「息子は今ほど鉄道が好きじゃなくなっているかもしれないが、昔を思い出しながら肩を並べて酒でも飲みたいですね」。江里子さんも「夫婦水入らずの電車旅行をしてみたい」とほほ笑んだ。(米盛菜美)

【鉄ちゃん】鉄道や鉄道に関連するものを趣味とする人々の愛称。車両や装備を研究する「車両鉄」、電車と風景などを写真に撮る「撮り鉄」、発車音や車内放送などを集める「音鉄」、このほか「乗り鉄」「模型鉄」など様々な愛称がある。最近は女性のファン「鉄子」も注目されている。

2011年1月3日  読売新聞)
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