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【3】みなかみの生ハム

寒風、低温で本場に匹敵

生ハムの熟成具合を見る須田さん(昨年12月31日)

 口に入れると広がる、芳醇(ほうじゅん)な熟成香。脂身は、舌の温度でとろけるほど繊細だ。かむと、にじみ出るのは、チーズのようなうまみとナッツのような甘み――。水上の厳しい寒さが育む生ハム「はもん みなかみ」は人気急上昇中だ。世界3大ハムの一つと称される、スペインの「ハモン・セラーノ」を目指すが、今や「匹敵する」と称賛される。

 全国の有名レストランからも注文がある。スペイン料理店「ウィータ」(東京都中野区)の大武誠史オーナー(34)は、「本場で食べたハモンセラーノに比べ、くせがなく、豚肉が本来持っているうまみがしっかり出ていておいしい。リピーターも多く、客の反応も良い」と満足げ。ドングリを食べて育つイベリコ豚にも負けないと太鼓判を押す。

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 手がけるのは、JR水上駅近くにある「育風堂精肉店」の須田麻紀夫さん(34)。約1キロ北東の工房はわずか40平方メートル程ながら、味の発信基地だ。

 須田さんの信念はシンプルにして強固だ。「水上のからっ風と寒さは、本場のスペインと似ている。良質の国産豚を使えば、負けない生ハムができる。むしろ、ここでしか作れない、既成概念を打ち破るハムが」

 欠かせないのが、4度以下の低温と風。乾燥を促し、うまみを凝縮させるためで、真っ白な雪と静けさに包まれる12月は年1回の仕込み時期。須田さんは、ほおに当たる冷気と天気予報を頼りに、好機を伺う。「今日だ」。昨年の仕込みは22日に始まった。

 麦を食べて育ち、きめの細かい脂身を持つ「上州麦ぶた」と「岩中ポーク」の足220本を用意。全身を使って丹念に血抜きし、肉質を見極めながら天然海水塩をすり込んだ。何度か繰り返した後、天井からつるして最低でも1年はねかせる。窓を開け、谷川岳から吹き付ける乾いた風を入れながら。この風が恵みだ。

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 創業50年の精肉店を継ぐことを決めたのは23歳の時。ミュージシャンを志し、東京都内の会社でゲーム音楽などを作っていた。父で社長の敏夫さん(60)が体調を崩したのを機に、故郷に戻った。店は品質に妥協しない卸業で顧客の信頼を得てきたが、存続への危機感を募らせていた。

 活路を切り開いたのは父に鍛えられた“舌”。最高級の和牛やマツタケなど上質の食材を食べさせられ、使われた調味料を判別できる鋭敏な味覚を身に着けていた。

 4年前、「自分にしか作れない物」と探す中で、生ハムを選んだ。国内に流通するハモン・セラーノに、塩気の強さ、くせのあるにおいと脂身のざらつきを感じていた。元々は冬の気候を利用して作られていたのに、今は塩分濃度を高めて熟成期間を縮め、温度管理された施設で通年仕込まれるものもあると聞いた。

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 製法はインターネットなどで勉強したが、最初の年は、納得がいかず、仕込んだほぼすべてを捨てた。試行錯誤を重ねて、08年12月、「これだ」と思える味にたどり着いた。「こんな生ハム初めて。感動した」と、首都圏から直接買いに来る客も増えている。

 「口に含むと目の前に水上の自然が広がるような、食べた人が思わず笑顔になるものを作り続けたい」。寒風に負けない熱い思いも、自慢のスパイスだ。

(神園真由美)

2010年1月6日  読売新聞)
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