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中和事業

「死の川」改善も岐路に

 「紅の川 青き空 木々緑なる大洞(おおぼら)に」

 1月15日、長野原町立東中で行われた3学期の始業式で、生徒たちの歌声が響いた。校歌に残る「紅の川」の文句は、かつて「死の川」と呼ばれた吾妻川流域の様子を今に伝える。

 吾妻川上流の湯川や万座川。活火山の草津白根山近くに源を発し、周辺にはかつて硫黄や鉄などの鉱山が点在した。草津や万座の温泉も流れ込み、吾妻川の水は昔から強い酸性で、魚は住まず、コンクリートもぼろぼろにした。

 吾妻漁協組合長の木暮岩男さん(78)(中之条町)は、「昔はおできができると、川の水をわかした風呂で治した。温泉に入るようなものだった」と振り返る。

 だが、吾妻川は1960年代半ばから一転してアユ釣りの名所になり、漁協は最盛期約3000人の組合員を擁した。湯川上流の草津町で、64年に中和事業が始まったのだ。翌年には、より効率的に中和を進め、中和生成物をせき止めるための品木ダムも完成した。

 草津温泉街の外れに、巨大な3基のサイロが目を引く中和工場を備えた国土交通省品木ダム水質管理所がある。湯川など3本の川に毎日60トンの石灰を投入する作業を、24時間管理する。こうした大規模な中和を行っているのは、全国でも数か所にすぎない。

 半世紀近く静かに続けられてきた中和事業が、八ッ場ダム問題でにわかに脚光を浴びている。

 昨年、前原国交相が八ッ場ダム中止を表明して以来、不安が木暮さんの頭を去らない。「中和も止められるのではないか」。木暮さんの日課は、川の水素イオン指数(pH)を測ることだ。「今も、出水などで一時的に酸が強まるだけで、魚がダメになる。死の川に戻すことだけはやめてほしい」。木暮さんは表情を曇らせる。

 国交省は「中和は八ッ場ダムを造るために始まったわけではない」とするが、強酸性の川でのダム建設は不可能だったのも事実だ。

酸性の水を中和するため、湯川に石灰が投入される(1月19日、草津町で)

 八ッ場問題を抜きにしても、品木での中和は岐路に立っている。

 長年積もった中和生成物は、すでにダム貯水量約166万立方メートルの8割を埋めた。年に5万5000立方メートルの生成物が流れ込む一方、浚渫(しゅんせつ)量は2万〜3万立方メートルにとどまり、もう後がない。「年間どれだけ浚渫できるかは予算次第だが、公共事業費削減の折、厳しい状態が続いている」(同管理所)。浚渫残土の処理場も、すでに3か所のうち2か所が満杯で、新規確保も難しい状況だ。

 前原国交相は昨年末、中和をより進めるための「吾妻川上流総合開発」を、全国88のダム事業ととともに、再検証対象とした。事業は、品木で中和している以外の吾妻川支川も中和し、現在pH5〜6の川をより中性に近づける狙いで、実験用プラントでの調査の段階だった。

 関東学院大の宮村忠教授(河川工学)は「全国に酸性河川が多数ある中、中和をしている河川が少ないのは、費用対効果が合わないから。吾妻川の中和の今後は、必要性とコストを時代に応じて判断すべき」と指摘する。

 吾妻川に魚とダムを呼んだ中和の未来も、見えないままだ。

2010年2月3日  読売新聞)
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