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【上】心の闇現実逃れ のめり込む「クスリに出合わなければよかったとは思わない。傷ついた心の痛み止めのような存在だったから」 県内の施設で薬物依存症と闘うユウスケ(仮名)(31)は、2年前まで大麻や睡眠薬を多用していた。きっかけは高校生の頃。自宅の部屋にいると3歳上の兄が、消しゴムかすのような黒い塊を持って入ってきた。「大麻やるか」。ユウスケは興味本位から二つ返事で答えた。「うん」 以来、兄からたまにもらっては、試した。 東京都内の一流大学卒業後、就職した会社の社長から大麻を1グラム3000円ほどで定期的に買うようになった。吸うと、楽しくなって現実を忘れられた。睡眠薬などにも手を付け、抜け出せなくなった。「感情がなくなるのがたまらなかった。何もかもが無になり、仏になったようだった」 幼い頃から親の機嫌をうかがい、びくびくしていた。家に居場所がないと感じた。小学5年の頃、交通事故に遭って右目の視力を失った。取り乱す母親を見て、「俺のせいだ」と責めた。大学生の時には付き合っていた彼女がレイプされるなど、心の傷は増えるばかりだった。「現実を直視したくない。サングラスの役割をクスリがしてくれていた」 薬物依存者の回復施設「ビッグラブクルー」(前橋市朝日が丘町)のスタッフ久保田雅人さん(38)は「薬物依存者は、心の闇を持っていて人間関係を築くのが苦手な人が多い。孤独から逃れるため薬物にのめり込んでしまう」と指摘する。 薬物依存は、家族も追い込んでいく。 8年前。県内に住んでいたシュウジ(仮名)(35)の部屋からシンナーのにおいが漂うと、母親(67)は当初から相談していた警察に通報した。「今シンナーを使っています。捕まえにきてください」 息子から薬物を切り離したい一心だった。「警察に突き出すなんて、という人もいるが、家族も極限状態だった」。シュウジが連行されるのを直視できず、家から離れたところで、ただ待つしかなかった。「あの子のため、これでよかったんだ」。逮捕は2回目だった。 シュウジは中学時代、柔道が強いことから不良グループに誘われ、暴走族に入った。その後、仲間と頻繁にシンナーを吸うようになった。家で花瓶を割ったり、壁に穴をあけたり行動が凶暴化していた。 母親は自分を責め続けた。「母子家庭だったし、悲しい思いをさせたからかもしれない」 離婚した父親(71)は、回復に取り組むシュウジを見守る。「今はインターネットで注文すると、翌日には注射器つきで覚せい剤が段ボールに入って届くとも聞いた。学生や会社員まで、普通の人も薬物を使っている」と憂う。 県警によると、違法薬物による県内の摘発者は2006年の249人から毎年増加し、09年は281人。中でも大麻は、05年の7人から09年の41人に増えている。薬物依存者の家族などから県に寄せられる相談件数も、09年度は過去最高の217件を数え、05年度の77件の約3倍に上っている。 ◇ 抜け出すのが難しい薬物依存症。回復を目指して闘う人たちの実態を追う。 (2010年6月17日 読売新聞)
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