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【中】悪循環

買う金欲しさに窃盗

 薬物を常用していた頃、県内に住むカオリ(仮名)(25)の体重は30キロ台にまで落ちた。薬物を体に入れると食欲がなくなるからだ。手足はガリガリ、肌の色も茶色くなり、目も黄ばみ、歯も溶けた。

 自傷行為も止まらなかった。手首を切った血で絵を描き、母親を驚かせた。母親が必死に刃物を隠すと、カオリは茶わんを割った破片でリストカットを続けた。

 「生きているのが地獄だった。死にたいけど勇気がなく、苦しくなるのをわかっていながらつい薬に手が伸びてしまった」と振り返る。「私の場合、薬がご飯だったから」

 小学生の時にいじめに遭い、暴力や非行に走ることで身を守るようになった。中学生の時、先輩から誘われてシンナーを始め、気付けば様々な薬物に手を出した。映画を見る時には、音楽の響きが良く聞こえる大麻。勉強する時には、寝なくても頑張れる覚せい剤……。しかし代償は大きかった。

 「薬をやめたい」とカオリが病院に駆け込み、薬物をやめてから1年半。現在は自助グループなどに参加し、自分を見つめ直している。

 県こころの健康センター(前橋市野中町)で薬物依存関係の相談を受けている芦名孝一医師(42)は「薬物依存症は『回復あって完治なし』と言われている」と指摘する。一度使って薬物の快感が忘れられなかったり、使用後に何かがうまくいったりすると、脳が薬物を渇望する。薬物以外にストレスを解消する行動の選択肢が少ないと依存症になりやすく、誰にでも可能性があるという。さらに芦名医師は続ける。「依存症になると、自分でも思ってもみない行動に走ってしまう」

 藤岡市にある回復施設「日本ダルク アウェイクニングハウス」で社会復帰を目指すヒデキ(仮名)(31)は、薬物を買う金欲しさに、窃盗を頻繁に行ったと打ち明ける。

 16歳から28歳まで覚せい剤を使っていた。最初は仕事の疲れを取るためだった。しかし、「覚せい剤を使いながらのマスターベーションが、たまらなく気持ちよかった」。離れられなくなった。

 当時、繁華街で売人から、覚せい剤を1グラム2万円ほどで買っていた。給料だけでは足りず、友人や消費者金融から金を借りたり、親の財布からくすねたりを重ねた。それでも足りなくなり、「早く覚せい剤を買って体に入れたい」という衝動が抑えられず、盗みを働くようになった。

 音楽CDなどを盗んでは売りさばいた。窃盗は50回を超えた。悪いことだと思っていたが、「あの快楽には勝てなかった。どうしても欲しくなった」。

 同施設のスタッフ金子貴弘さん(34)は「薬物欲しさに窃盗や強盗に走る薬物依存者はたくさんいる」と話す。

 薬物は凶悪事件の引き金になることもある。

 昨年7月、男性を暴行して死亡させ、藤岡市の貯水池に遺体を乗せた車ごと沈めた事件。加害者は犯行前に覚せい剤を使った影響で執拗(しつよう)に暴力をふるった。被害者の男性も覚せい剤による異常言動を繰り返し、加害者とトラブルになっていた。

2010年6月17日  読売新聞)
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