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【下】回復施設

心開き、仲間と連帯感

 「依存症の八郎です」

ミーティングでは過去の自分の経験を包み隠さず話す。薬物依存者にとっての「居場所」だ(4日、前橋市の「ビッグラブクルー」で)

 今月4日、前橋市朝日が丘町の薬物依存者の回復施設「ビッグラブクルー」の代表で入寮者らと共に回復を目指す安井靖さん(50)が口を開くと、6畳の和室で車座になっていた人たちが一斉にニックネームを呼ぶ。「はちろー」

 同施設で行われている治療プログラムの一つ「ミーティング」は、この「儀式」で始まる。

 安井さんは脇に置かれた灰皿を見つめながら、おもむろに話し始めた。「薬物をやめてから、一日一日積み重ねたものをある時、急にぶちこわしたくなる時がある。この衝動を何回も経験したんだよね」。周りに座る依存者は、温かく見つめている。

 安井さんは時折、遠くを見つめながら、過去の経験を語る。周囲は自然と首を縦に振り、皆、同じことで悩んでいるんだと気付く。

 薬物依存者の回復施設は、県内には3か所あるが、すべての施設でミーティングを取り入れている。

 ミーティングは自分自身と向き合う場だ。一人ひとりが過去の自分の経験を包み隠さず話していく。2、3分で話し終わる人もいれば、30分以上話す人もいる。言いっ放し、聞きっぱなしが大原則だ。だから何もかもをさらけ出せる。

 最初は何の意味があるのかといぶかる入寮者も多いが、次第に何でも聞いてくれる「仲間」に安心感を覚える。多くの薬物依存者は「ミーティングは自分たちの居場所」と話す。

 その理由を、回復施設「群馬ダルク」(高崎市日高町)のスタッフ平山晶一さん(41)は「薬物依存者は寂しい思いをしてきた人が多く、心を閉ざしがち。心を開いて共感し、仲間とつながっていると自覚することが必要なんです」と話す。

 施設は基本的には入寮型で、スタッフはすべて薬物経験者。寝食を共にするなどして支援を続けている。毎朝決まった時間に起きて寝る、自炊をする、スポーツに興じるなど健康的な生活を送り、社会復帰を目指している。

 施設数は他県と比べて少なくないが、薬物依存者に対する理解は進んでいない。どの施設も行政の補助を受けておらず、手弁当のスタッフで成り立っている施設もある。

 家族の正しい理解も必要だ。薬物依存症の子を持つ男性(71)は「刑務所から出てきた時に、かわいそうだと思って一緒に暮らすのでは、また薬物に手を出す。別居して小遣いもやらず突き放すことが必要」と話す。甘えを断ち、本人が追いつめられて初めて、薬物依存症という病気と向き合えるという。

 さらに、刑務所が薬物の情報交換の場になっているという問題もある。ある薬物依存者は「出所後に再び使えることだけを楽しみにしていた」と打ち明ける。

 回復には時間がかかり、多くの困難が伴う。「ビッグラブクルー」のスタッフ久保田雅人さん(38)は言う。「過去は変わることはない。しかし、自分の中身が変わることで同じ過去でも違った景色に見え、今の自分と向き合える」。仲間を信じ、変えられるものは変えていく勇気を持ち、今日も彼らは薬物依存症と闘っている。

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 この連載は波多江一郎が担当しました。

2010年6月18日  読売新聞)
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