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【2】家族の人生変える

夫亡くした吉備さん、臨床カウンセラーに

 東京と大阪を結ぶ日航123便は、多くのビジネス客を運んでいた。新幹線より速い空路を利用した企業戦士たちが不慮の事故に遭い、家族の人生は大きく変わった。

◇ ◆ ◇ ◆

 大阪市の製薬会社に勤めていた吉備雅男さん(当時45歳)は、出張で頻繁に東京との間を往復していた。事故当日の午後5時頃。「これから乗るから」という電話を受けた妻の素子さん(67)は、長男に伊丹空港まで雅男さんを迎えに行かせた。「お父さんが降りて来ない」。素子さんがテレビをつけると、レーダーから機影が消えたことが伝えられていた。

 身元は、焼けて子供のもののように小さくなった右手の指紋から確認できた。ひと月ほど前。2人で大阪の御堂筋を車で走っていると、雅男さんがふと「僕が先に死んだら、どうする?」と問いかけてきた。雅男さんの手は長命の相。いつもは、素子さんの方から同じ質問をしていたのに。

「家族を突然失った人の気持ちは同じ」。カウンセリングに用いる道具を手に、吉備素子さんは静かに語った(7月13日、大阪の自宅で)

 今、大阪府の自宅の一室には、ミニチュア人形や家具が並ぶ。夫の客死から1年後、自分を見つめ直すため、臨床カウンセラーの勉強を始めた。「人形と家具はその道具なんです」

 交通事故で亡くなった人の家族の相談に乗る。1995年の阪神大震災では、ボランティアとして被災地入り。2005年に起きたJR福知山線事故の遺族のケアにも取り組む。

 「遺族は『家族を返して』と思う。でも、それは出来ない。だから知りたいのです。真の事故原因を」

 日航の垂直尾翼から「鶴丸」のデザインが消えて久しい。素子さんには、日航が事故の記憶を早く消したがっているように映る。今も、国内線に乗ることはない。

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 吉備雅男さんより30列後ろの座席にいたハウス食品工業社長の浦上郁夫さん(当時47歳)は、良い1日で終わるはずだった。自社も標的となった「グリコ・森永事件」の犯人「かい人二十一面相」がこの日、「くいもんの会社いびるのもおやめや」と事実上の犯行終結を宣言したのだ。事件からの解放と社長の死。ハウスの8・12は、明暗が交じる1日となった。

 当時入社3年目で東京支店の管理課にいた大沢善行さん(51)は、「それぞれの役割で社業にまい進せよ、と取締役陣から指示を受けた。とにかく混乱がないようという思いでやってきた。危機を二つも経験し、会社は強くなったと思う」と振り返る。

 浦上さんの密葬は16日。長男、博史さん(44)の20歳の誕生日だった。博史さんは銀行勤務を経てハウスに入社。昨年4月、24年ぶりに創業家から社長に就いた。子煩悩な若社長は、家族との時間を大切にしている。

2010年8月2日  読売新聞)
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