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(上) 再出発 観光に活用、自立正念場

写真:写真説明
ダム事業に伴う地元支援事業の一環で整備されたテニスコートを前にする萩原さん。施設に対する地元の期待は強い(片品村戸倉で)
 雪解けを待ちわびたように、青々とした人工芝のテニスコート6面と、真新しいフェンスに囲まれた野球場が姿を現し始めた。

 片品村営スキー場だった高台は、ダム建設計画を経て、運動公園に生まれ変わった。5月上旬にはオープンし、合宿の学生らの歓声が響くはずだ。

 「今まであった運動施設は老朽化が激しかった。観光で生きる戸倉は、この施設で大きく変わる」

 地元住民による戸倉ダム対策委員長の萩原一志さん(49)は「春」を待つ住民の声を代弁する。


写真:写真説明
閉所に伴って看板を下ろす水資源機構戸倉ダム建設所の柏木順所長(3月31日)
 ダムは1982年に計画が浮上。水没地区に居住者はなかったが、地権者には先祖の土地を手放すことに抵抗もあった。だが、約45億円に上る地元支援事業が示されたこともあって打開に向かい、住民からの用地買収はほぼ終了。94年度に国道付け替えなど周辺工事が着工していた。村民も、ダム建設と支援事業を前提とした村づくりにかじを切った。

 だが、5年間の工事中断を挟み、2003年12月、大口の事業費を負担する埼玉県が「水需要の縮小」を理由に撤退を表明。東京都なども追随し、同月中には最終的な中止が決まった。

 地元支援事業は曲折もあったが、計約35億円分は実施が決定。間違えて掘った穴を埋め戻すかのような、「村の復旧」が始まった。

 運動公園の一部もその一環。支援事業に基づく地域振興策は、尾瀬の観光情報発信拠点となる「尾瀬自然文化博遊館」(仮称)や森林公園、散策道の建設など観光が柱となり、尾瀬の玄関口へ追い風としたい考えだ。

 村は4月から運動公園の運営を、指定管理者制度に基づき、行政区としての戸倉地区に委託した。支援事業で今後できる新設施設はすべて戸倉地区に委託し、「住民主導」で活用していく考えだ。

 実際の企画と運営は、行政区組織内に設ける施設運営委員会があたる。従来のダム対策委員会は、施設運営委員会に一部移行する形で、今夏までには解散する予定だ。

 しかし、指定管理者となれば、施設を無償で貸与される代わりに、赤字を出した場合は住民側の負担となる。年間の総土木費が3億円余りの同村にあって施設建設は“特需”といえるが、「完成後、逆に重荷とならないか」という懸念も抱える。

 「20年後、30年後、戸倉が自立して生きていけるよう、地域の仕組みを根本から見直す大事な時」。萩原さんは力を込める。

 平成の大合併では、一線を画した村が、「ダム建設の村」から脱却し、本当の意味で自立できるか。遅い春を迎えた住民の吐く息は例年になく熱を帯びる。

 (田島大志)

   ◇    ◇

 ■戸倉ダム 主に埼玉県、東京都の利水と、利根川水系の治水のため、総貯水量9200万立方メートルの重力式コンクリートダムとして計画。1987年度に事業着手され、総事業費は1230億円が見込まれた。当初は2000年度の完成を目指していたが、周辺でクマタカの営巣が確認されたため、96年度から約5年間、工事を中断。工期を08年度まで延長して再開後、間もなく中止が決まった。

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