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[第6部 伝える]

(6)遠野の昔話 心のふるさと

正部家ミヤ(しょうぶけ・みや)さん 語り部 84 (岩手県出身)

 林業を営んでいた菊池力松さんの二女として生まれた。遠野の昔話の語り部として、姉の鈴木サツさん(故人)とともに全国を巡った。今も公演を続け、その語りをまとめた「正部家ミヤ昔話集」などが出版されている。出身地の遠野市在住。

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「昔話を聴くお客さんの表情がいろいろに変わってくれるのがうれしい」と笑顔で話す正部家さん(遠野市のJR遠野駅前で)=前田毅郎撮影

 私が話す遠野の昔話は、父(菊池力松さん・故人)から教わったもの。物心が付いたころから、毎晩のように父のひざの上で昔話を聞いて育ちました。

 「昔あったずもな(むかしむかし)」で始まって、「どんどはれ(おしまい)」で終わる。

 夕ご飯を食べ終わって、赤く火がともる囲炉裏の前で、毎晩のように聞きました。話を聞いているうちに眠ってしまうこともありました。父の話が聞きたかったのか、それとも、父のひざのぬくもりが恋しかったのか。

 父、力松さんは昔話の語り部として知られていた。だが、自分が語り部になるとは、思ってもみなかった。

 父が亡くなる直前の30年ほど前、東京で開かれた柳田国男生誕100年記念のイベントで、昔話を披露してほしいと頼まれました。

 この時、姉と2人で昔話を記憶の片隅から引き出してみたんです。こたつに入って、子どものころ聞いた話を思い出してみると、驚いたことに父の昔話と一言一句まで同じように、300近くの昔話を話すことができました。

 小さいころに覚えたものは忘れないものですね。今でも200以上の昔話を話すことができます。

 父反響は大きかった。それ以降、公演依頼がひっきりなしに舞い込んだ。

 公演では、遠野3大昔話の「かっぱ淵」「オシラサマ」「ザシキワラシ」を必ず入れます。都会の人たちは、遠野なまりの昔話に楽しそうに聴き入ってくれる。懐かしさのあまり、涙を流す人もいます。みんなふるさとを感じたいんでしょう。「亡くなった母のことを思い出しました」と声をかけられたこともあります。

 1997年には遠野を訪問された天皇、皇后両陛下の前でも昔話を披露しました。馬と娘の悲しい恋物語の「オシラサマ」と、豆腐とこんにゃくのこっけいなやりとりを描いた「豆腐とこんにゃく」の話を紹介すると、最後は皇后さまが「どんどはれ」と声を合わせてくださいました。「もっと色んな話が聞きたかった」と言葉をかけていただき、本当に感激しました。

 父昔話の語り口は、静かで穏やかだ。父親が囲炉裏の前で話してくれたように。

 特別に抑揚を付けて話したり、面白おかしく話そうとはしません。落ち着いた話しぶりや遠野地方独特の方言で話すことで、昔話の雰囲気がより一層深くなる。ふるさとの風景を頭に思い浮かべながら、郷愁を感じ、素朴さを楽しんでもらいたい。方言が難しくて聞き取れない部分もあるでしょうが、だいたいの内容がわかれば十分。話の中身以上に、雰囲気を味わってほしいのです。

 父80歳を超えた今も、月の半分以上は全国各地で遠野の昔話を語っている。

 遠野も含め、各地の文化や方言が失われつつあります。土地の歴史や文化が集約されている方言を失ってしまえば、親や祖先の記憶が消えてしまう。

 公演先で、私が聞き取れないような方言で話しかけてくれる人がいる。そんな時には、あなたたちのその言葉で、子どもや孫たちに昔話をしてあげてと、いつも頼んでいます。

 昔話を聞けば誰もが「心のふるさと」に帰る。その「ふるさと」を後世に伝えてほしいと願っています。(聞き手・釜石通信部 前田毅郎)

市民研さん 囲炉裏端で披露


遠野の方言で昔話を披露する「いろり火の会」メンバー(遠野物産館で)

 遠野市の中心部にある遠野物産館では、遠野に伝わる昔話を聴くことができる。語り部は、民話研究グループ「いろり火の会」のメンバーだ。

 同会は、遠野の民話を学んでいた市民有志が、研究の成果を披露しようと2000年に結成した。現在の会員は18人。毎日2人ずつ交代で、物産館で語り部を務めている。

 物産館の2階。語り部館には、囲炉裏をあつらえた舞台がある。その囲炉裏端に座った語り部が、わが子や孫を相手にするように、昔話を語って聞かせる。休日には100人ほどが詰めかけ、語り部の話にじっと耳を傾ける。

 いろり火の会のメンバーは、正部家ミヤさんらベテランの語り部から教わりながら技術を磨く。「自分たちで楽しみながらやっています。それがお客さんにも伝わっているのでは」と、会長の工藤さのみさん(63)。

 メンバーの多くは主婦で、60歳代が中心。若い世代の参加が課題だ。今は主に市内で活動しているが、工藤さんは「昔話は遠野の宝物。今後は遠野だけでなく、日本中に昔話を届けられるよう、活動を広げていきたい」と意気込みを語る。

2007年11月10日  読売新聞)

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