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道産子の学力向上へ―教育座談会◇基礎習得 緊急の課題 ◇教員の質 底上げ必要北海道の子どもに必要な学力とは何か。学力向上のためにどうすべきか――。全国学力テストで北海道が低迷する現状を踏まえ、教育関係者4人による座談会が13日、読売新聞社主催で札幌市内で行われた。北海道教育長と北海道教職員組合(北教組)委員長が、長い断絶の壁を乗り越え、本音をぶつけ合うなど、2時間以上にわたる議論で、北海道の教育論の本質に迫った。 (司会=北海道支社編集委員・笹森春樹)
【牧口 秀徳(まきぐち ひでのり)氏】 前札幌市立新光小学校長…1974年北海道教育大釧路校卒。札幌市立鴻城小校長、文部科学省「学習指導要領の改善等に関する調査研究協力者」などを務める。2010年3月退職。札幌市出身。60歳。
――2007年に復活した北海道の全国学力テストは4年連続で不振。この現状をどう見るか。 〈高橋〉 結果を厳しく受け止めている。単に点数や全国順位が低いのではなく、漢字の書き取りや四則計算の正答率が低いなど、基礎学力が身についていない。放課後の補習、長期休業期間の学習サポートをする学校は増えているが、全国に比べて十分でない。学力テストの結果には、子どもの学習習慣や生活習慣も密接に関係している。テレビを見たりゲームをしたりする時間が長く、1時間以上家庭学習をする子どもが少ないなどの問題が北海道にはある。子どもたちが将来どんな仕事に就こうとも、グローバル化の流れに無縁ではない。それに対応できる人材を育てていかなければならない。 〈林〉 北海道の子どもが学びの面で多くの課題を持っているのは事実だが、学力テストだけを他の都府県と比較して「不振続き」とする議論は生産的ではない。都府県との比較は、学校現場の点数競争をあおる恐れがあり、自己肯定感を持てない子どもを生み、全体の学力低下を招く心配もある。最も危惧するのは、学校がテスト対策の授業に傾くことだ。テストの点数より、学びの質を問うことが大切ではないか。学びの力を一律の尺度で評価する危うさがある。 〈村山〉 確かにテストの結果だけが学力ではないし、点数競争が過熱するのは本末転倒だ。だが基礎的な四則計算(注)の正答率で全国平均と10ポイント、秋田と40ポイントの差があるのは、学校で基礎的な学習が身についていない証拠だ。4年間の学力テストの結果、北海道の子どもの基礎学力が低いことは紛れもない事実だ。どの学校も基礎基本は徹底させてほしい。教育手法や学力テストの是非は別にして、北海道の全校で、学力向上にどう取り組むかの議論をスタートすべきだ。
【高橋 教一(たかはし のりかず)氏】 北海道教育委員会教育長…1973年北海道大経済学部卒。同年道庁に入庁し、経済部次長、総務部次長、上川支庁長、経済部長、保健福祉部長を経て、2009年から現職。名寄市出身。61歳。
(注)…小学校6年算数A(基本)の問題「50+150×2」で、北海道の正答率は54%(抽出校)。全国平均は65・9%、秋田県は93・7%だった。 〈牧口〉 読売新聞の道民を対象にした世論調査では、6割が北海道の学力テストの結果を「問題だ」と回答しているのに、そうした緊迫感が学校に届いていない。学力テストの結果を見ると、行政や現場の対策の実効性が上がっていないことを認めざるを得ない。都府県に比べて後れをとったとみられても仕方がない結果だ。効果が上がらないのはなぜか。保護者や道民も含めて、どうすべきかを考える時期だ。 〈林〉 学力は、かつての知識の量や計算の正確さ、速さという概念から、必要な情報を選んで判断する力、知識や経験を活用する力、多面的に考える力に変化している。学校には子どもを民主主義社会の担い手として育てる使命があり、自分や他者を大切にする感性を育てる必要があり、それを含めて学力、「学びの力」と考えるべきだ。子ども同士の学びあいや、子どもの成長の多様性を保証し、生きた学びの力を育てる必要がある。基礎基本が大切なことに異論はないが、基礎をつけてもPISAで高得点が取れるような応用力には、必ずしもつながらないという実証的データもある。 ――学力テストで北海道は基礎も活用力も点数が低い。相関関係はあるように思うが。 〈牧口〉 学力を大工の職人に例えるなら、クギやカンナなどの道具にあたるのは計算や漢字など基礎基本の知識。この知識を使いこなす力が、考える力だと私は思う。学力は知識と活用力が基本。学力テストは完全ではないが、学力の土台を測るには十分だ。
【林 秀彦(はやし ひでひこ)氏】 北海道教職員組合 中央執行委員長…1979年北海道教育大岩見沢校卒。80年から小樽市内の小学校に勤務。北教組小樽市支部書記長、同支部長を経て2010年8月から現職。静内町(現新ひだか町)出身。55歳。
〈村山〉 確かに応用力や思考力は大事だが、今の学力テストはPISAを踏まえて作られており、林委員長の指摘する学力もきちんと測られている。基礎基本と活用力は結びついており、学力テストで四則計算や文章の読み取り力が低い子どもは、応用問題の正答率も低い。活用力以前に基礎学力がついていない。子どもに議論させたり考えさせたりする授業は多いが、まず子どもが基礎基本を習得することを、徹底すべきではないか。北海道は、そこが弱いと思う。 〈高橋〉 学力とは学んで得た力と、学ぼうとする力の総合力だと思う。義務教育である以上、全国の機会均等が大事だ。秋田にいるから学力が高い、北海道だから低いということは本来あってはならない。 〈林〉 PISAが絶対とは考えないが、国の教育施策を考える材料を提供している。例えば09年のPISAで、学力に課題の多いとされた子どもの割合は、上海0・7%、韓国1・1%、日本は4・7%。なぜ日本の学力格差が大きいのかを検証すべきだろう。 ◆ ――学力向上のために学校や教員はどうすべきか。 〈高橋〉 学校全体として学力向上の目標と重点とすべき指導の共通認識を持つことが必要だ。個々の教員の優れた指導を参考に、個人でなく学校全体として取り組む。家庭や地域の支援も必要だ。ただ家庭や地域も教育力の低下が指摘され、効果的にアプローチしていく必要がある。
【村山 紀昭(むらやま のりあき)氏】 前北海道教育大学長…1971年北海道大大学院博士課程修了。95年北海道教育大教授、99〜2007年同大学長、08〜10年札幌国際大学長。中央教育審議会「教員の資質能力向上特別部会」委員。美深町出身。67歳。
〈林〉 学校は共同体という点では、教育長に同意する。その上で、まず少人数学級の実現が第一だ。教員の目が届くだけでなく、子ども同士の学びあいを容易にする。次に教職員の多忙を解消すること。教員の病気休職者の7割以上が心の病という実態は深刻だ。子どもたちとじっくり向き合える時間と環境を作るべきだ。どの学校も真剣に取り組んでいるのに、学力調査の結果だけで学力ととらえるのは間違いではないか。学力テストに課題があっても不登校はゼロ、という学校を評価していい。 〈高橋〉 少人数学級は実現の方向に行ってほしいし、国に強く働きかけている。昔に比べて学校が忙しいのは事実だが、教員の心身に影響を与えることはあってはならないことだ。行政としても教員の時間外勤務等の縮減のために取り組みたい。 〈村山〉 確かに先生はがんばっているが、「不登校はゼロ」ということをもってよしとすべきか。学校は「学んで社会的に自立する」ためのものだ。そのための土台になるのが、小中学校の基礎的な知識や学びの姿勢、習慣だ。これが弱いことが、北海道の子どもの生きる意欲、たくましさが落ちていることにつながっている。学力をつけるという基本的な目標が明確でない学校があるのは気になる。いじめや不登校をなくすことも大事だし、教員の勤務条件の改善や組合活動も大事だが、そういう先生が家庭を含めて子どもの学習の面倒をみる一番教育熱心な先生であってほしい。 〈牧口〉 学級は「20坪の密室」だ。意欲的な教員は自分の授業を公開し批評されることをためらわないが、公開に消極的で向上心に欠ける教師もいる。学力の二極化が言われるが、教師格差、教室格差と呼ぶべき、教師の二極化が起きている。校長は優れた指導技術や指導方法の共有化に努めるなど、教員の指導力を底上げする校内体制を強いリーダーシップで作ることが大事だ。子どもの学力状況から見た課題を正確につかみ、習熟度別授業など組織としての体制を作る。学校管理職の資質は学校の質や学校差を左右する。 〈林〉 読売調査で、北教組の活動は「自分たちの権利の主張」と考えている人が5割に達したが、北教組も教育研究を運動の柱に据えている。年1回、全道の組合員を集めて教育実践例を研究し、検証していることを知ってほしい。 ◆ ――習熟度別授業の実施率が北海道は低い。 〈高橋〉 大事なのは、子どもの学力に応じたきめ細かな指導だ。習熟度別授業は子どもの自尊心を傷つけるという拒否感が強かったが、全国的には優れた事例が蓄積され、効果が実証されている。子ども一人一人の理解度を考えない授業で教えたことにするのは、子どもがかわいそうだ。各学年で基礎となる学力を身につけさせてから進級させるのが学校の使命で、習熟度別授業が有効な手法なら、導入を検討すべきだ。実際にあった話だが、14÷7ができない中学生がいて、よく聞いてみたら、6の段以上の九九ができなかった。かけ算は小2、割り算は小3だが、それができないまま学年が進行し中学校へ行く。それではいけない。 〈牧口〉 習熟度別授業で差別教育が起きたという例は耳にしたことがない。学力の二極化が進み、四則計算ができない子どもがいる問題をこれ以上放置できない。教員が組合と保護者との間の板挟みになり、苦しんでいる現状を見てきた。北教組が習熟度別授業に反対する方針は見直すべきだ。 〈林〉 学校5日制については、子どもを地域に返し、地域の教育力を高めるという当初の理念を大切にすべきだ。習熟度別授業が子どもたちの学ぶ力を底上げするのか疑問であり、検証が必要。教育先進国とされるフィンランドは、少人数学級や子どもの学びあいを大切にし、必ずしも習熟度別授業を取っていない。基礎基本を定着させる練習も否定しないが、「わかる、できる、使える」の学習過程を大切にしようと言っている。ただ暗記させて「わかる」を飛ばすのは問題だ。 〈牧口〉 算数の九九は、現場では丸暗記だけの指導になっていない。優れた教員は、意味内容を十分に指導して子どもたちが活用できるようにしている。一方、漢字の書き取りは繰り返し練習して定着させるなど、仕分けた指導は必要だ。子どもの「わかる」過程を無視して、「できる」ことに追い立てる指導は論外だ。 ――学力テストで家庭の教育力、生活習慣に問題があることも明らかになった。 〈村山〉 予習や復習、宿題は、昔からやってきた指導法のイロハで、授業だけでは不十分なのは明らかだ。わからない子どもに放課後に教えるのは、日本の教員の良き伝統。教員の忙しさは理解するが、家庭学習に目配りをしてほしい。基礎基本の定着には、授業以外で計算問題や書き取りのドリルも必須。全員が理解できるまでやることに、ためらうべきではない。 ――経済格差と学力差の関係を教育社会学者らが指摘している。 〈高橋〉 経済力が低いから学力が低い、というのは少々乱暴な議論だと思う。そういう(困窮家庭が多い)地域でも学力向上の取り組みをし、成果を出している学校もある。義務教育の責務として最低限の学力は保障しなければならない。家庭が経済的に十分勉強できる環境でないなら、学校の場で家庭教育をサポートするのも公教育の使命ではないか。 〈林〉 道民の暮らしは、本州に比べて格段に厳しい。せめて子どもたちにいい教育を、という願いを真剣に受け止めるべきだ。義務教育は無償が原則なのに、私どもの調査では小学6年間で家庭の私費負担が平均32万3000円、中学3年間で27万3000円に上る。家庭の負担を解消する努力を行政に求めたい。 ――学力の地域格差を是正するための人事に着手したそうだが。 〈高橋〉 郡部は若手教員の割合が高く、指導の経験不足は否めない。そこで今年から宗谷、根室、日高の3教育局の小中学校採用試験で「地域枠」採用を導入した。都市部で4年間指導力を高めてから、地域に根を下ろしてもらう。また、広域的な人事交流も、来年度から実施する準備をしている。ベテラン教員に3年間、郡部の学校で子どもや先生を指導してもらい、逆に郡部の若い先生には都市部で十分な経験を積んで力量を高めてもらう。 〈林〉 人事については交渉事項なので論評は控えるが、今後10年間で、教員の3割以上が定年で大量退職する時代を迎える。若手教員を、職場全体で育てる意識が大切になるだろう。 ◆ ――教員に修士課程を履修させることが中央教育審議会の部会で検討されているそうだが。 〈村山〉 学校現場と大学が連携して教員の力を身につける仕組みを考えている。教員の修士教育は、その一つの方法だ。中教審は来年1年間かけて、具体的な内容を議論する。北海道でもこの問題の議論を高め、いろいろな意見を寄せてほしい。3年前、実践的な教員教育を行う「教職大学院」がスタートしたものの、国立では北海道教育大だけが定員の充足率が6割と低迷している。北海道の教員が、もっと自分の資質を上げることに関心を持ってほしい。教員が大量退職した後の年齢構成は、厳しい問題だ。北海道は小規模校が多く、学校や市町村教委だけで若手教員の力を育てるのは限界がある。 〈高橋〉 教員の修士教育や教職大学院は、一般論としては教員の実習が充実する点では望ましい。ただ教員の経済的、時間的な負担が増え、教員志願者の減少につながる可能性もある。 〈林〉 教員免許に期限を設けるのは愚策。教員免許更新制は即、廃止すべきだ。教員の修士教育は大きな制度変更であり、時間をかけて議論すべきだ。もし学士課程と修士課程の教員資格に差を作れば、学校現場に新たな職階を生みかねない。教員の資質の向上は重要だが、学校現場で子どもと触れあい、資質を上げることが大事だと考えている。 ――学力テストが今年から悉皆(しっかい)調査(全校調査)から抽出調査に切り替わったが、希望参加した学校が多かった。 〈牧口〉 抽出調査でも北海道の教育状況は統計的に把握できるが、各学校の学習状況の把握、学校ごとの努力の経年評価がしにくくなった。札幌市が希望参加を見送ったのは残念だ。学校ごとに学力を測り、課題をはっきりさせるには、悉皆調査が欠かせない。行政のきめ細かな対応にも役立つ。何よりも結果的に子どもの利益につながる。読売調査でも道民の7割が悉皆調査を支持している。 〈林〉 端的に言えば、学力テストは中止すべきだ。北海道で札幌以外の全校が参加したのは、突出した数字だと思う。希望した学校は、なぜ希望したのか。子どもの学びや育ちにどう活用されるのか。検証と説明責任を果たしてほしい。 〈高橋〉 学習指導要領で目指す学力が、どの程度身についたかを全国調査で測ることが、なぜ悪いのかよくわからない。いたずらに点数や順位を争うべきではないが、教えっぱなし、学びっぱなしではだめ。どの程度身についているかを子どもや学校の絶対値として測り、全道・全国の相対値を見ながら、絶対値を高めていく努力をすることは、子どもたちにプラスになる。そういう意味で私は悉皆調査にすべきと思っている。 〈村山〉 全国テストで学力の到達点を測ることは、国際的にも否定されていない。個々の学校の状況がつかめないのは非常に問題があり、悉皆でやるべきだ。ただ、現場の忙しさを考えれば、数年に1回でもいいと思う。大事なのは結果を教育に生かすこと。北海道の学力は、問題が多すぎる。教員、行政、地域、大学がそこに共通の認識を持ち、議論を始めるべきだ。 ◆ 《全国学力テスト》…4年連続 小中とも低迷 全国学力テストは、ゆとり教育による学力低下を懸念する声を背景に、2007年、43年ぶりに復活した。対象は小学6年と中学3年で、教科は国語と算数・数学。それぞれ基礎(A問題)と活用力(B問題)の2種類が出題される。 北海道は4年連続で小6が最下位レベル、中3が40位台と低迷している。09年までは全員参加型の悉皆(しっかい)調査で行われたが、民主党政権の事業仕分けで予算削減され、今年から抽出調査に変わった。抽出校以外でも希望すれば参加できる。 かつての全国学力テストは、小中高校生を対象に1956〜66年に行われた(高校生は62年まで)。一部で点数競争が過熱し、日本教職員組合(日教組)が反対闘争を展開し、中止された。当時は、都会と田舎の都鄙(とひ)格差が順位にも反映し、東京、大阪などが上位、北海道や東北各県などが下位だった。復活した学テではこの傾向は当てはまらない。かつて下位の常連だった秋田は、今はトップの常連県になっている。 ◇ 【PISA(国際学習到達度調査)】 経済協力開発機構(OECD)が2000年から3年に1度実施している世界共通の問題による学力調査で、15歳を対象に「読解力」「数学的応用力」「科学的応用力」をテストしている。直近の09年調査には65国・地域の47万人が参加し、日本は読解力で8位、数学的応用力で9位、科学的応用力で5位で、近年の低下傾向に歯止めがかかった。PISAは「Programme for International Student Assessment」の略。 ◇ 【教員免許更新制】 教員免許に10年の有効期限を設け、30時間の講習を義務づけて更新を認めるもの。旧免許状所持者は3月末現在で35歳、45歳、55歳が更新の対象となる。教員としての資質能力が保持されるよう、最新の知識技能を身につけてもらう狙いがある。自公政権下の2009年度に導入された。これに対し民主党政権が見直しを表明したため、今年度、制度廃止を見込んだ教員が、講習受講を見送る動きが相次いだが、7月の参院選で民主党が敗北し、制度見直しの法改正が暗礁に乗り上げている。 ◇ グラフは読売新聞北海道支社が昨年12月、道民を対象に実施した世論調査のデータ。 (2010年12月22日 読売新聞)
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