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料亭「さわ田」女将 澤田 啓子さん <3> (2005年2月2日)9歳の秋 「2万5千円で売られた」
格子戸を開けて茶の間に入ると、背筋をしゃんと伸ばした女性が座っていた。「怖い」と澤田啓子は感じた。置屋「澤田」の門をくぐったのは9歳の秋。「養女に」と請われた。10年の年季奉公の約束だったが、2万円の前借りは2万5千円に。「私は2万5千円で売られた」と澤田は言う。
起床は朝6時。茶の間の掃除、玄関に打ち水。食事を済ませ、自分で弁当を詰めて小学校へ。帰るとすぐにお稽古(けいこ)。長唄、踊り、俗曲、お囃子(はやし)と、毎日2、3軒は回った。 お稽古から帰ると、澤田の母やお姉さん方がお座敷に出るころで、着付けの手伝い。見送った後は、澤田の母の三味線箱を料理屋さんに届けます。お姉さん方が座敷から戻れば、着替えを手伝ったり、足袋をたわしでこすったり。夜遅く帰ってきた母に「啓子」と起こされ、一緒に踊らされたこともありました。酔って泣くお姉さんも。芸者衆も悩みを抱えていたのです。でも、芸事に打ち込むと、違う世界が開けるような感覚を覚えたものです。そのころからです。過去を切り離そう、切り離そうとするようになったのは。 しかし、親子の縁は簡単に切れるものではない。時折、「澤田」の玄関を入る実父の姿を見かけた。金の無心。そんな姿を見るのが何よりもつらかった。 そういう日は決まって、「座んなさい」と母に呼びつけられて怒られます。黙っていると、「返事だよ」と殴られる。デレキといわれるストーブの火かき棒でバーンとやられるのです。 それでも、中学生になると、学校生活を楽しむ余裕もできました。初恋を経験したのもそのころです。まさかその初恋の相手と後に結婚することになろうとは夢にも思っていませんでしたが――。 学校では、きゃあきゃあ言い合う普通の女学生。気を使ってくれる友人もいて、お稽古で忙しくなると、お掃除当番を代わってくれました。 卒業式の謝恩会では着物で踊りを披露。青春時代最後の思い出だった。
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