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牧場でバイト 「夢」に手ごたえ<3>

“遅咲き”新人騎手活躍

写真:写真説明
「ここにいられて幸せ」と語る浅田達矢騎手(11日、岩見沢競馬場で)
 夏が来ると、新人騎手浅田達矢(27)は、澄んだ青空を見上げ、初めて北海道を訪れた6年前の日のことを思い出す。そして、「今、自分がこうしていられるのは奇跡だ」と思う。

 浅田は高松塚古墳で有名な奈良県明日香村出身。ほとんどが北海道、東北出身のばんえい騎手の中では異色の存在だ。体育教師の家庭に育ち、少年野球チームで活躍、全国優勝した経験を持つ。しかし、中学で野球をやめ、親の望む高校に入学したころから、つまずき始める。

 夢や希望もなく、「何でなりたいのか自分でもよくわからない」まま、医大受験に何度も失敗した。「自分は同世代の人より劣っている」という思いが募り、ほとんど引きこもり状態に陥った。

 「このままでは駄目になる」――。舞鶴からフェリーで北海道に旅立ったのは21歳の初夏だった。

 自転車をこぎ、小樽から稚内、網走に抜け、川湯温泉のライダーハウスに泊まっているときにアルバイトを紹介された牧場にばん馬がいた。放牧やエサやり、草むしりの毎日は新鮮で楽しく、1か月の予定が気付けば2年たっていた。

 そんなある日、牧場の社長に、「しようもないプライドじゃメシは食えないぞ」と言われた。浅田は度肝を抜かれた。

 それまで、「自分は能力はあるのに、機会を与えられなかった」とずっと思っていた。学歴こそないが、知恵と努力で世間の荒波を生き抜いていた社長は、浅田の不満を見抜いていたのだ。ナイフのように突きつけられた言葉は、「夢も希望もないと言うが、夢の実現のためにおまえは努力してきたのか」と問いかけていた。

 ある時、社長に北見競馬場に連れて行かれ、ばんえい競馬を初めて見た。勝負の世界の興奮や緊張感が心地よかった。180センチ以上の長身もばんえいなら大丈夫と聞いた。「オレもひょっとしたら騎手になれるかもしれない」。忘れていた情熱が蘇(よみがえ)った。

 今年1月デビュー。すでに17勝(7月25日現在)を挙げ、騎乗数こそ少ないが、31人中勝率3位、連対率1位と新人離れした活躍を見せている。所属厩舎(きゅうしゃ)の調教師・久田守(52)は「馬に触るのが遅かったハンデがありながらよくやっている。頭は抜群に良いが、それだけでは勝てないのがこの世界。あとは本人の努力次第」と語る。

 浅田は、「一流の騎手は、馬だけでなく他の騎手の性格まで知り抜いているし、精神力が違う。自分はまだまだ“ひよこ”。少しでも近付きたい」とひたむきだ。

 5月22日の第1レース。デビュー後、初めて旭川競馬場を訪れた父親の前で、浅田は「シンエイスター」で見事に勝利を収めた。父の手には1000円の単勝馬券があった。「いろいろ心配かけましたからね」。ほんのちょっぴり恩返しが出来た。

(敬称略)

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