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駒苫 夢の軌跡<5>(2006年08月27日)

先発3回 来年に自信

写真:写真説明
決勝再試合で先発した菊地翔太選手(21日、甲子園球場で)
 夏の全国高校野球大会14日目の19日、智弁和歌山(和歌山)との準決勝。駒大苫小牧の先発メンバーが電光掲示板に1人ずつ表示されていくと、球場全体にどよめきが起こった。「6番、菊地」。決勝進出のかかった大一番で、監督の香田誉士史が先発を託したのは、エース・田中将大ではなく、2年生・菊地翔太だった。

 菊地は、支部予選から南北海道大会決勝までの7試合で出場機会なし。2か月半ぶりに登板した甲子園3回戦の対青森山田(青森)戦では、緊張からフォームが乱れ、2/3回で被安打2、失点2と打ち込まれた。

 しかし、香田は「疲れが残り、調子の悪い将大よりも、菊地の球の方が走っている」と感じ、次世代の中心として期待する菊地にかけた。

 試合前夜、投手陣と捕手・小林秀を集め、「先発は菊地で行こうと思うんだが、行けるか」と問いかけると、菊地は、即答した。

 「大丈夫です」

 田中も、先発・菊地を喜んで受け入れた。「打たれても気にするな。後はおれが抑えてやる」と後輩を送り出した。

 準決勝開始直前、5万人の観衆が見守る中で投球練習を始めた菊地は、いきなりバックネットを直撃する大暴投。緊張で腕がしっかり振れず、ストライクが入らない。しかし、「これで逆に落ち着いた」。

 試合が始まると、人が変わったようにカーブ、ストレートが次々ストライクゾーンに納まった。優しげな表情に隠れた強心臓ぶり。「練習がつらくても、投げるのが楽しくて続けてきた。大声援が何よりうれしかった」という。

 菊地と同学年の投手・対馬直樹は、ベンチから羨望(せんぼう)のまなざしで見守っていた。

 「自分の分までがんばってくれ」

 甲子園のベンチ入りメンバー18人のうち、2年生は菊地と対馬の2人だけ。昨夏は、主力として活躍した田中、本間篤史をはじめ、2年生が6人を占めていたのとは対照的だ。

 「今年の2年生は弱い」「まとまりがない」。周囲から言われるたびに、対馬は表向き「そうですね」と応えながら、「勝手に何言ってるんだ」と闘志を燃やして練習してきた。

 菊地に「対馬の調子がいいと不安になる」と言わせるほどの存在。しかし、対馬は大会直前、疲労の蓄積で、練習できないほど背筋を痛めてしまった。「いざという時に戦力になれない。おれは何をやってるんだろう」と、自分を責めた。

 ライバル・菊地は、準決勝から早実(西東京)との決勝再試合まで、3試合すべてに先発。味方のエラーもあり、最長で2回1/3までしかマウンドを守れなかったが、決勝再試合では自己最速の球速140キロを記録。智弁和歌山や早実の強打者が、菊地の速球に何度も振り遅れていた。

 「自信になった。次は、自分が中心となって将大さんみたいに引っ張っていく。中田(翔=大阪桐蔭)でも川西(啓介=早実)でも、絶対抑えて優勝する」(菊地)

 対馬は公式練習でマウンドから見た景色が忘れられない。「テレビで見るのとは全然違う。ここならいいボールが投げられそうだ」。準優勝が決まり、甲子園を立ち去る際に誓った。

 「みんなと一から作り直して、必ず戻ってくるからな」

 24日、苫小牧市の同校グラウンドで、2年生を中心とした新チームが始動した。香田は胃潰瘍(かいよう)の疑いで検査入院のため不在。ナインは小雨が降る中、ぬかるんだグラウンドを笑顔で走り回った。

 重圧も苦悩もなく、伸びやかに――。

(敬称略、おわり)

(この連載は、清水暢和、星野誠が担当しました)

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