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<7>「最高のサービス業」誇りホテルマンから無農薬野菜農家に転身した 西田栄喜さん39(能美市)富山、福井、静岡、滋賀――。半年単位で持ち場が変わる「根無し草」の生活に嫌気がさしていた。 大手ビジネスホテルチェーンで支配人として勤務していた1997年の暮れ。西田栄喜(39)は、四方を白い壁に囲まれたシングルルームのベッドの中で、3年前にヒッチハイクで回ったオーストラリアの田舎の人たちの顔を思い返していた。 ある農家の男性が見せてくれたのは、80年前の風景写真。「この辺は今も全く景色が変わってないだろ」と自慢げだった。別の農家は「俺たち農家がいないと国は成り立たないんだ」と言い切った。地に足を付け、仕事に自信と誇りを持つ彼らの笑顔が、まぶしく輝いて見えた。 翌年春にホテルを退職。野々市町の農園で1年間修業した後、能美市の実家近くに畑を取得し、農家として生きる決意を固めた。 ◎ 白菜、大根、ナス、ピーマン。四季を通じて50種類以上の野菜が代わる代わる植え付けられる畑の面積は30アールしかない。サッカーコート半分ほどの「日本一小さな専業農家」だ。 野菜はすべて無農薬で、米ぬかや大豆、おからを原料とした自家製の発酵肥料で育てている。2000年に開設したインターネットショップ「風来」で販売しているキムチやユズ大根、かぶらずしなどの漬物も、すべて手作りで、添加物は使わない。 素人の無謀な挑戦。他の農家からは白い目で見られ、実際、作物を虫食いで全滅させたこともあった。だが、食の安心・安全に対する消費者の関心が高まるにつれ、売り上げも増加。インターネット販売のリピーター率は6割を超える。02年には畑の前に直売所をオープンさせ、“顔の見える商売”も始めた。 「命の元を育てる農業は、究極のサービス業。お客さんの口に届くまで責任を持ちたい」。西田のこだわりは揺るがない。 ◎ 季節の移ろい、自然への畏怖(いふ)と感謝の念。農業を通して気付いたことは多かった。「根無し草のように生きていた自分に、生きている実感を与えてくれた」。ホテルマン時代のストレスは消え、眉間(みけん)にしわを寄せることもなくなった。 最近は、大豆を育て、みそを作るサークルを始めたり、地域の子どもたちと一緒に草むしりや収穫をしたりと、活動の幅を広げている。「農業を通して、地元に根ざした生活の魅力をもっと知ってもらいたい」との思いは尽きない。 農業を始めて10年が過ぎた。今なら、オーストラリアで出会った農家と同じように自信を持って言い切れる。自分の仕事は、「最高のサービス業」だと。故郷に自分の定まる場所を見つけた元ホテルマンは、今年も畑から“命の元”を届け続ける。(敬称略、藤元陽)(終わり) (2009年1月9日 読売新聞)
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