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[第2部 「日本一」を訪ねる]

(17)手彫りの技に太鼓判…山梨・市川三郷町


印章資料館前に展示されている「世界一大きいハンコ」を案内する佐野千文さん。印面には「不動如山」と彫ってある

 JR身延線の甲斐岩間駅前に立つハンコのモニュメントは直径約2メートルもある。市川三郷町六郷地区(旧六郷町)。ここは、「日本一のハンコの里」を掲げる町だ。

 印章販売店が点在する駅前通りを5分ほど歩くと、「印章資料館」に着く。入り口のところにある「世界一大きいハンコ」は重さ約3トン。2メートル四方はある印面の「不動如山」(動かざること山のごとし)の文字は、職人が50人がかりで彫ったという。館内には、象牙(ぞうげ)や水晶、メノウなどのハンコや、ハンコに関する資料など約1万点が展示されている。

職人40人「ハンコの里」

 資料館を管理する市川三郷町商工会六郷支所の佐野千文(ちふみ)さん(45)は「六郷は人口4000人足らずだが、印章彫刻の職人が約40人、販売店が約20軒、ケースやゴム印を作る業者、問屋もそろっていて、町全体がハンコの工業団地だ」と解説してくれた。

 では、山あいの町がなぜ、「ハンコの里」になったのか。地区内の旧岩間村では、江戸時代から足袋が生産され、行商人が全国に売り歩いていた。明治になって、甲府周辺で産出する水晶の加工が盛んに行われるようになると、行商人が取ってくる水晶印の注文が増え、岩間で開業する印章彫刻職人も多くなっていったのだという。

 戦後の高度成長期には、印相体という書体のハンコが「幸運を呼ぶ」として飛ぶように売れた。1982年刊行の「六郷町誌」には、「(町内のハンコの)生産は全国の50%を上回る盛況ぶり」と記されている。材料である象牙の在庫を200本用意していた店も珍しくなかったという。

 しかし、機械による量産技術の進歩、象牙の輸入規制、文書のデジタル化などで、手彫りハンコの需要は低迷。70年には町内で約190人いた職人は約5分の1に減った。

 六郷印章業連合組合では、手彫りハンコの良さを伝えようと、落款(らっかん)印を彫る「篆刻(てんこく)体験教室」を95年から印章資料館で開いている。授業の一環で来館する小学生や、書などを趣味とする団塊世代の人たちが多く、2006年度は約650人が参加した。

地域ブランド登録


小刀でハンコの仕上げ作業をする佐野弘和さん。筆、電気スタンド、電話などが置かれた、約1メートル四方のこたつの上が仕事場だ(市川三郷町岩間で)

 また、地域の特産品として売り込みを図ろうと、県印章店協同組合が「甲州手彫印章」を地域ブランドとして出願、今年1月、登録された。

 木などを材料とする「木口(こぐち)彫刻」の職人、佐野弘和さん(72)宅を訪ねると、居間のこたつで、「半差し」と呼ばれる小刀を使って、直径1センチ足らずの印面に文字を彫り込んでいる最中だった。「よどみなく生き生きした文字には、機械にはない『温かみ』がある」。この道56年の佐野さんは、手彫りの線は、鋭かったり、のんびりしていたりと、表情が異なると教えてくれた。

 ほとんどが60歳以上という六郷の職人の中で一番若い望月一宏さん(34)は、ハンコ作りの家業を手伝っていたが、「どうせやるなら技術を身につけたい」と、25歳の時、神奈川県内の訓練校に入った。「時間と手間をかけて物を作る喜びは、何ものにも代えられない」と話す。

 「手彫りにこだわる優秀な職人がたくさん残っている。それが、今でも六郷が日本一と言える理由です」と、六郷印章業連合組合の望月節哉組合長(65)は力説する。

 生産量は、機械生産の地に及ばないが、「ハンコは六郷の宝」と言い切る人たちの心意気で、“日本一”を誇りとする、技の修練、質へのこだわりはこれからも変わらず続くのだろうと思った。(高橋敦人)

 印章彫刻 象牙や木などの「木口」と、水晶やメノウなどの石類に、それぞれ専門の職人がいる。篆書(てんしょ)など6つ以上の書体を使って、逆さ文字(左右逆の字)で印面に彫る技術が必要。「技能検定」に合格すれば、国家資格である「印章彫刻技能士」を名乗ることができる。最上級の1級は、3月末現在、全国で2139人(木口のみ)いる。

《地域ブランドとして登録されているハンコ》

名称 登録年月 産地  特 徴
甲州手彫印章 2007年1月 山梨県 印章で唯一、経済産業相指定の「伝統的工芸品」になっている。水晶、ツゲ、水牛を材料とすることなどが条件
京印章 2007年1月 京都府 中国・漢の時代の書体「印篆(いんてん)」を主に用いる。組合が認可した職人の手作りであることなどが条件

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2007年5月10日  読売新聞)
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