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[第2部 「日本一」を訪ねる]

(50)こんこんと湧く名水…静岡・清水町

元は富士山の雨雪


10年ほど前の柿田川の様子。清らかな流れは今も変わらない(清水町役場提供)

 清水町を貫く大動脈・国道1号。湧水量日本一と言われる「柿田川湧水(ゆうすい)群」は、そのすぐ脇にある。がけ下から延びる幅10メートル以上の川の底をのぞき込むと、あちこちで砂が吹き上がっていた。地元で「湧(わ)き間」と呼ばれる湧水で、約1・2キロの柿田川に数十か所あるという。

 富士山で降った雨や雪が地下水となり、約2割が一帯で湧き出す。湧水量は1日約100万立方メートル。25メートルプール2000杯分にもなる。町は「東洋一の湧水」とPRする。

 静岡大名誉教授の土(つち)隆一さん(79)が解説してくれた。「富士山への年間3000ミリ以上の降水は、みな地下にしみこむ。地下水はいくつかの溶岩流の間を通って湧き出してくるが、その中でも大きなものがここで、湧き水としては日本一でしょう」

 地下で濾過(ろか)されるためか、水質も優れている。水道水の種別では最もきれいな1級だ。隣接する沼津市は、清水町の分と合わせて湧水群から水道水を取水しているが、井戸からは地上60センチまで自然に水が噴き出す。

 浄化施設が必要ないため、水道料金も安い。一般家庭の基本料金は2か月で920円。「きれいでおいしく安いなんて、住民は本当に恵まれている。水温も年間約15度で、夏は冷たくて冬は温かい」。市水道部送水管理センター所長の大嶽(おおたけ)陽一さん(58)が胸を張る。

 だが、努力なしにきれいでおいしい水が飲める訳ではない。湧水群を維持するため、地域住民が果たした役割は大きい。

住民ら「保護の会」


砂を吹き上げながら水が湧く湧き間の一つ。これでも昔に比べて勢いがかなり弱まっているという(清水町役場提供)

 大手水産会社で航海士をしていた漆畑信昭さん(72)らが「柿田川自然保護の会」を設立したのは、1975年のこと。県営水道施設工事でショベルカーが川底を掘り起こしたことがきっかけだった。

 当時は環境に対する行政や企業の意識も低かった。会が川の保護を訴え、町や県に陳情や請願を繰り返したが、なかなか聞き入れてもらえない。「川を保護して何になる」と反論され、上司には「環境保護は企業の敵」とさえ言われた。

 柿田川流域の不動産開発などにも徹底して反対。マスコミに柿田川が紹介されるようになり、85年、環境庁(当時)の名水百選に選定された。

 88年には、私有地を買い上げるナショナル・トラスト運動を始めた。全国の自然愛好家らに募金を呼びかけると、連日100通以上の現金書留が届いた。曲折もあったが、官民共同で川沿いの緑地の9割以上を買収し、貴重な動植物が生息する緑を守った。

 97年からは、町や柿田川湧水保全の会(古泉栄一会長)などと協力して富士山麓(ろく)への植樹に取り組む。これまでに植えた木は約2万3000本。

 それでも、湧水量は60年代の1日130万立方メートルと比べると、減ってきている。その点に触れると、漆畑さんの顔が一瞬険しくなった。

 「航海士として世界を見てきたが、そのまま飲めるほどの水があれだけ湧き、素晴らしい自然があるのは日本の宝。何としても守らなければ」。湧水群の保護に取り組む闘士の意欲は、30年以上たった今も衰えない。(小林佑基)

 名水百選 全国の清らかな水を国民に紹介し、水質保全への認識を深めてもらうことなどを目的に1985年に誕生した。湧水ではお鷹の道・真姿の池湧水群(東京都)、安曇野わさび田湧水群(長野県)、八ヶ岳南麓高原湧水群(山梨県)など、河川では四万十川(高知県)などがある。環境省は、6月ごろをめどに新たな名水、「新・名水百選」(仮称)を選定する。

《柿田川に生息する動植物(国交省沼津河川国道事務所発行のパンフレット「柿田川」より)》
種類 名  前
ヤマセミ
カワセミ
アユ
アマゴ
ホトケドジョウ
ウツセミカジカ
昆虫 アオハダトンボ
ゲンジボタル
植物 ミシマバイカモ
ヒンジモ
オオアカウキクサ
カワヂシャ
ナガエミクリ

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2008年1月31日  読売新聞)
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