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ブナ立ち枯れ 消える森

大気汚染や害虫被害 30年で20ヘクタール以上草地に

丹沢山山頂から塔ノ岳方面に約300メートル歩くと、数年前に立ち枯れした樹齢100年以上のブナが無残な姿をさらしていた

 両手を上げて降参する幽霊――。10月上旬、丹沢山山頂近くの南西斜面で幾本ものブナが枯死する姿を見て、そんな印象を持った。箒(ほうき)杉沢を眼下に望む斜面を、相模湾から駆け上がる心地良い秋の風と、朽ち果てた木々の不気味な姿とが、奇妙な対照を生み出していた。

 丹沢山地の尾根筋で進むブナの立ち枯れは、いくつもの要因が組み合わさった結果と考えられている。地表を覆うササなどをシカが食べ尽くす。むき出しの地表は乾き、雨水が土をえぐる。湿った場所を好むブナは弱り、土中の養分を吸収しにくくなる。害虫の「ブナハバチ」がブナの若葉を食べる。さらに、大きな影響があると考えられてきているのが大気汚染だ。

(上)1977年に蛭ヶ岳の山頂付近を空撮した写真(国土地理院撮影)(下)蛭ヶ岳の山頂近くを2007年に空撮した写真。77年に比べて多くの木が消え、草地になっている(県提供)。中央付近の四角は蛭ヶ岳山荘の屋根

 「そよそよと吹く、この風に含まれた光化学オキシダント(オゾン)がブナを衰退させます」と県自然環境保全センター(厚木市)の研究連携課長・山根正伸さん(52)が解説してくれた。南側の斜面から尾根、そして北側の斜面へと目を移すと、木々の葉や枝は徐々に多くなる。海側からの風が木を弱らせているのだという説明がすんなりと頭に入った。

 丹沢山地約4万ヘクタールのうち、標高の比較的高い場所に広がるブナなどの広葉樹の森は約8000ヘクタール。山根さんらが1974〜77年と2007年に空撮された山塊の写真を比較して推計したところ、20ヘクタール以上の森が草地へと変わっていた。

 今から20年ほど前、野鳥調査で檜洞(ひのきぼら)丸山頂を訪れた山口喜盛さん(51)はすでに、こうした変化に衝撃を受けた。かつてブナの枝葉が陽光を遮っていた南側の斜面は、ブナが朽ち果て、明るく開けていた。

 ブナをすみかとするキツツキの仲間オオアカゲラは姿を減らし、丹沢では絶滅寸前とみられている。コマドリは、すみかの低草木をシカに奪われた。山口さんは「草地を好むビンズイは数を増やすだろう。ブナ枯れを止めないと、生態系はすっかり変わってしまう」と危機感をあらわにする。

 山根さんも「ブナ林は豊かな森林の象徴。草地になると生態系が崩れ、首都圏の水源ともなっている丹沢の恵みを享受できなくなる恐れがある」と表情を硬くした。(住友堅一)

2010年10月19日  読売新聞)
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