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(5)「震災銭湯」づくり進む非常時に生かす地域の絆入り組んだ細い路地が点在する古都・鎌倉の旧市街。急な階段を50段も上った先にたたずむ、一軒家もある。「震災では、孤立する住民が出るに違いない」。地元で診療所を営む医師の酒井太郎さん(42)が、往診の途中でつぶやいた。 東日本大震災から10日後に宮城県南三陸町に入った。目にしたのは、自力で避難所に行けず、高台の自宅で孤立する高齢者の姿。寝たきりだったり、心臓病など持病を抱えたりしていた。狭い路地や高台が、鎌倉の街並みと重なって見えた。 道路が壊れ、土地カンもない場所での往診は苦労した。それでも活動できたのは、住民同士のつながりがあったから。避難所にいない高齢者の名前を、記憶を頼りに書き出した地区のリーダー。ここで訪問介護をしていた女性看護師が道案内をしてくれた。「彼女なら知っているはず」と教えてくれたのも避難者だ。3日間で15軒を回った。 ◎ 鎌倉は街の規模が違う。看護師1人で全て把握することはできない。「地域のつながりでカバーするしかない」。そんな思いを強めていた時、「鎌倉に震災銭湯をつくる会」と出会った。 「震災銭湯」は、災害が起きた時のため、救急介護所や簡易トイレなどを備えた救援機能を持つ多目的公衆浴場。孤立感を防ぎ、体だけでなく心も温める狙いがある。昨年1月、設置を目指す住民が同会を設立した。 「風呂は日本人にとって一つの文化。リラックスした環境の中なら、住民の会話も自然に生まれるはず」 祖父が地元で営んだ銭湯「松の湯」の記憶がよみがえった。戦争体験を語るお年寄りに、スポーツカーの自慢話をするおじさん。湯を薄めすぎて、常連に「コラッ」と怒られたこともあった。「世代も職業も色々な人から、たくさんのことを教わった」 風呂はみんなを笑顔にする。不機嫌そうにのれんをくぐった男の人が、帰りは「いい湯だったよ」とニコニコしていたことを思い出しながら、同会の活動に参加しようと決めた。 ◎ 震災銭湯の構想は、メンバーと建築の専門家らが話し合い、少しずつ具体化している。防災や地域コミュニケーションへの意識の高まりから、賛同する約8200人の署名が集まり、鎌倉市も研究に動き出した。 もし大災害が発生したら、自分がそうしたように全国から応援医師が駆け付けるだろう。「その時は、地域の人が彼らの目や耳となり、一人でも多くの命を救ってほしい」。住民同士の絆が、震災銭湯で育まれればと願っている。(おわり) (この連載は板垣茂良、藤亮平、坂本幸信が担当しました) (2012年1月9日 読売新聞)
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