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(1)ギター弾き語りの住職と脳性まひの長男慈音君の絵から 命の歌
「善人なおもて往生す ましていわんや悪人はなおさらだ/oh my son このメッセージが聴こえるかい」(遊牛の詩) 仏教の教えを盛り込んだ自作の歌を、自らのギター伴奏で歌う。慈音君も、リズムに合わせて足の指に挟んだハンドベルを振った。慈音君は、重度の脳性まひだ。 北条さんは、浄土真宗「蓮向寺」(相模原市当麻)の住職。中学時代、ボブ・ディランにあこがれてギターを始めた。二十歳で得度してすぐ、弾き語りと法話を組み合わせた「音楽講演」をスタートさせた。今では、各地の寺院に招かれ、公演は年二十回に及ぶ。 三十三歳の時、慈音君が生まれた。阿弥陀(あみだ)様の声という意味を込めた。自分のように音楽好きであってほしいという願いもあった。 慈音君が、脳性まひと診断されたのは一歳のころ。妻の里恵さん(41)は、自分で座ったり食べたりできない慈音君に付きっきりになった。体が自由にならない苦しさからか激しく泣き、寝かしつけても二時間後には、また泣き出す。とても音楽を続けられる状況ではなかった。 夜泣きする慈音君を連れて三人でドライブに出た。「音楽をやめようと思う」。そう切り出した北条さんに、里恵さんはきっぱりと言った。「もし、自分のせいで音楽をやめたと知ったら、慈音が一番悲しむでしょう」 そのあと、北条さんは一曲の歌を作った。地位や財産を得るより、家族で今日を過ごせることが、どれほど大切か。人は障害の有無を問わず、尊厳を持った無二な存在だ――。そんな思いを歌にした。 慈音君から教わった「尊厳ある命を大切にする心」を伝え広めるため、北条さんは縁と絆(きずな)をテーマにした「縁絆(えんばん)コンサート」を始めた。その会場には、必ず慈音君がいる。 慈音君は、話をしたり、字を書いたりはできないが、足の動きで気持ちや考えを伝えることができる。「イエス」は片方の足をピョコンと上げる、「ノー」なら足を交差させるといった具合だ。また、足の指でつかんだ絵筆で水彩画も描く。 ある時、何本もの赤や青の線が、中心から外へと伸びていく絵を描いた。完成すると、足で「花火」を表現してみせた。一週間前、米国同時テロのニュースを家族で見ていた。「世界貿易センタービルが崩れるところでしょう」。里恵さんの言葉に慈音君は、足を跳ね上げ「そうだよ」と答えた。 「これほど悲しい花火は見たことがない」。北条さんは、絵を「悲しい花火」と名付け、寝室に飾った。毎日、眺めるうち、「悲しみを乗り越えて」という曲を書いた。「自分は慈音から影響を受けて曲を作り、歌っているんだ」。改めて思い知った。 北条さんは言う。「言葉は、考えを伝え合う大事なもの。だが、言葉があるが故に、表面的に終わっている人間関係も多いのではないか」。慈音君とのコミュニケーション手段は限られている。「でも、心が通い合えば、万の言葉でも言い尽くせないことが伝わる。慈音にハンデがあるからこそ、私たちはもっと深いところで交流できるのです」 (木田 滋夫)
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